呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
「これは俺の伴侶が身に纏うには、不相応な安物だ」
「し、しかし……」
「俺の言うことが、聞けないのか」
「う、ぅ……」

 オルジェントの眉が、不機嫌そうに歪められたからだろう。
 叱咤されることを恐れた彼女はドレスを握りしめると、小さな声で彼にお礼を告げた。

「で、では……。ありがたく、頂戴いたします……」
「ああ。着替えてこい」
「は、はい! すぐに、支度をして参ります!」

 イブリーヌは俊敏な動きでソファーから立ち上がると、白猫を優しく床の上に離してやる。
その後、パタパタと隣の部屋に駆け出した。

(一人にして、大丈夫なのか……?)

 彼女が走るたびに、ギシギシと嫌な音を立てて床が鳴る。

 底が抜けるのではないかと心配になりながら、亡霊達がイブリーヌにおかしなことを囁く可能性を危惧したオルジェントは、ハクマに何か言いたげな視線を向ける。

『すっかり骨抜きじゃないか』
「彼女の姿を前にして、惚れない男はいない」
『どうだかね。そうやって自分を正当化して、あとで痛い目を見なければいいけど……』
「うるさい。無駄口を叩いている暇があるなら、彼女の様子を見に行け」

 オルジェントから睨みつけられた白猫は、思いもよらない彼の指示に困惑の色を隠せないようだ。
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