呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
『いいのかい? 君より先に……』
「尻尾を刈り取るぞ」
『はは。嫌だなぁ。冗談だよ』

 乾いた笑い声とともにオルジェントへ告げたハクマは、ゆったりとした足取りでイブリーヌの元へ向かった。

(出会ってから半日も経たずにプロポーズ、か……。急展開だな……)

 改めてここに至るまでの経緯を回想した彼は、自分自身の行動力に驚きを隠せない様子で、ぼんやりと彼女が姿を消した扉を見つめる。

(三日……いや。一週間程度はじっくりと時間をかけて、彼女と心を通わせるはずだったんだがな……)

 彼はイブリーヌが自身と同じ想いを抱いていると知ったら、自らの気持ちを抑えきれなかった。

(ハクマに茶化されるのも、無理はないな……)

 たった数回の会話を繰り広げただけで、生涯独身を貫くつもりだったオルジェントは彼女との未来を望んでしまったのだ。

 亡霊の悪意に惑わされることなく。
 彼の隣で人間らしい生活を営めば――心優しきイブリーヌは、帝国民に愛される皇妃になるだろう。

(認めよう。俺はイブリーヌを、愛していると……)

 たかが数十分話した程度で相手のすべてを知れたならば、苦労はしない。
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