呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
(美しい翅を羽ばたかせる、蝶のようだな……)

 イブリーヌの姿を視界に捉えているだけでも、愛しさが溢れて止まらない。

(まだ彼女には、俺の気持ちを伝えていなかったな……)

 大事なことを思い出したオルジェントは、彼女を自国へ連れて帰る前に、自らの気持ちを打ち明けようとして――。

「俺は君を――」

 ――失敗した。

「陛下?」
「あ……」

 彼女が不思議そうに、彼を見上げる。

(なんだ、これは……)

 オルジェントはイブリーヌに愛の言葉を伝えるつもりだったが、それを口にしようと唇を何度動かしても、喉が引き攣り単語がうまく紡げない。
 そんな自身の異変に、ようやく気づく。

「ど、どこか……。痛いのですか……?」
「いや……」

 愛の言葉以外は、淀みなく声が出せるのに。
 なぜ、彼女に気持ちを伝えようとする時だけ、言うことを聞いてくれないのか。

(これが、呪いか)

 先程亡霊達の始末に失敗した際。
 彼らが告げた言葉を思い出したオルジェントは、苦しそうに唇を噛み締めた。
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