呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない

(いつまでも、陛下のご厚意に甘えるわけにはいかないわ……)

　イブリーヌが貴族令嬢として一人で生活できるだけの知識と知恵を身につけた瞬間、彼とは離縁することになるだろう。

(彼はきっと、私が気兼ねなく離縁できるように、配慮してくださったのね……)

　自分の都合がいいように彼の発言を受け入れた彼女は、ウエディングドレス姿のまま、オルジェントとともに寝室までやってきた。

「俺達は夫婦だ」

　夫は彼女にそう念押しをすると、彼女をベッドの縁に座らせてから手首を離す。

(よかった……。君を愛することはないと言われたら、どうしようかと思ったわ……)

　彼がイブリーヌに好意を持っていないのは、結婚式の出来事から明らかだ。

　二度もその現実を突きつけられることを恐れた彼女は、小さく頷くことで彼の言葉を受け入れた。

「それだけは絶対に、忘れるな。たとえ俺が、君に……」

　オルジェントは苦しそうに唇を噛み締めながら拳を握りしめると、イブリーヌから視線を逸らす。

　彼女は不思議そうに彼の姿をじっと見つめたが、その視線すらも彼にとっては不快でしかなかったようだ。