呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
「あとのことは、シロムに任せる」

 オルジェントはそう告げると、寝室をあとにしてしまった。

『嫌われた。キラワレタ』
『亡霊の愛し子、カワイソウ』
『不相応にも、人間らしい幸せを得ようとするからいけないんだ!』

 去りゆく夫の後ろ姿を潤んだ瞳でじっと見つめていた彼女の周りに、黒い影が無数に浮かび上がる。
 彼らは代わる代わるイブリーヌの耳元で騒ぎ立てると、キシキシと耳障りな笑い声を響かせた。

『絶望せよ』
『早くこっちにおいで』
『命を断てば、亡霊の女王になれる』
『なんでも願いが、叶うんだよ!』

 彼女が人間として生き続けることを望まない彼らは、イブリーヌが悲しむ姿を見た瞬間に、その傷口を抉るように背中を押す。
 そのたびに彼女は耳を塞ぎ、嵐が過ぎ去るのを待っていた。

(陛下と一緒の時は、彼らの声はほとんど聞こえなかったのに……)

 オルジェントがいなくなると、すぐにこれだ。

(アヘルムス国を捨てても、彼らからは逃れることはできないのね……)

 先が思いやられると苦悶の表情を浮かべたイブリーヌは、ごろりと勢いよくベッドに背中を打ちつけた。
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