呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
「無駄なんですよ。待っていたって。陛下のお心は、あの女性に寄せられているのですから……」
『それは、誤解なんだ!』
「ではなぜあの場で、はっきりそう否定しなかったのですか」

 イブリーヌは見当違いな問いかけをすると、白猫を胸元から引っ剥がそうと揉み合いになる。
 嫌がるハクマの鋭利な爪が頬に当たり傷を作れば、その様子を目にしていた亡霊達が闇の力を強めた。

『愛し子の頬に傷を作った』
『ユルサナイ』
『ユルセナイ』
『八つ裂きにしよう』
『それがいい!』

 再び怒りの感情に支配された悪しき魂達が、イブリーヌの意志に反して闇の力を開放する。

『く、ここまでか……っ』

 悔しそうに呟いた白猫が、このままやられるわけにはいかないと。
彼女の胸元に、縋りついた時のことだった。

「イブリーヌ!」

 ドンドンガンガンと耳障りな扉を叩く音とともに。
 二度と聞きたくなかった金切り声を、聞いたのは。

「お、お母、様……?」

 母親が洋館に姿を見せるはずがない。
 そう高を括っていたイブリーヌは顔を真っ青にしながら、先程まで乱闘を繰り広げていた白猫を抱きしめると全身を震わせた。
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