呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
 母親は糸が切れた人形のように、床へ倒れ伏す。
 その様子を間近にした娘は、ぼんやりと考える。

(亡霊達にすべてを捧げたら……。私もこんなふうに……)

 悪しき魂ごと刈り取られてしまうのではないか。
そう恐れたイブリーヌは、急に命を散らすのが怖くなったのだろう。
真っ青な表情で、白猫を抱きしめる力を強めた。

「俺は君を、愛せない」

 彼はいつだって、イブリーヌの傷を抉るような言葉ばかりを紡ぐ。

(そんな言葉、聞きたくない……!)

 彼女が両耳を塞げば。
 支えを失ったハクマは空中でバタバタと四肢を動かしたが、結局重力には逆らえず。
 ドサリと音を立て、床の上に落ちた。

「イブリーヌ」

 大鎌を背中に背負い直したオルジェントは、重苦しい足取りで妻の元へとやってくる。

『死神に魂を刈り取られるぞ』
『攻撃しなきゃ』
『消される前に』
「や、やめて、ください……っ」

 いくら彼女が、夫の意に反する行動をしたとしても。
 オルジェントはイブリーヌに、牙を剥くことはない。
 そう信じているからこそ、妻は必死に亡霊達へ懇願する。
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