呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
(ふかふかだわ……)

 かつて彼女は、薄汚れたカバーがかけられたボロボロのソファーに横たわり、睡眠を取っていた。
 キングサイズのベッドを一人で使うのには、抵抗がある。

(本当にここで、眠ってもいいのかしら……?)

 手入れの整った部屋で寝泊まりをしたことのないイブリーヌにとって、清潔な部屋で一人放置されるのは一周回って恐怖でしかない。

(やはり、私にはもっと……相応しい場所があるはずだわ……)

 彼女はただ広いだけの部屋で居心地のいい場所を探るべく、ベッドから起き上がろうとして――。
 胸元に、何かが飛び乗ってきたことに気づく。

『オルジェントは酷い夫だね。初夜すらも、拒否するなんて……』

 尻尾を揺らして彼女を安心させるように頬擦りするのは、純白の身体を持つ動物。
 オルジェントの相棒、白猫のハクマだった。

「白猫さん。初夜とは、一体なんのことでしょう……?」
『夫婦になった男女は、初めて過ごす夜に愛を交わし、肌を重ね合わせるのさ』

 イブリーヌは初めて聞く言葉に目を白黒させる。
 そんな彼女の姿を、見かねたのだろう。
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