呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
(やめて。私を惑わさないで……!)

 イブリーヌは耳を塞ぎたい気持ちで、いっぱいになりながらも。
夫の苦悶に歪む表情から、目が離せず――。

「頼む。イブリーヌ。戻ってこい。俺は、君がいないと……」

 夫の思わせぶりな発言は、最後まで紡がれることなく途切れた。

(彼を信じて、本当にいいの?)

 一度裏切られた相手を信頼するのは、簡単なことではない。
 彼に好意を抱くためには、長い時間がかかるだろう。

(陛下はそんなに長い間、待ってくれるのだろうか……)

 イブリーヌが一番恐れているのは、彼を好きになった直後。
 再び裏切られて追い出されるような状況だ。

(もう、ここにだって……。逃げ帰っては来られない……)

 彼女を虐げる母親は、オルジェントの手によって気を失っている。
 目が覚めてイブリーヌの姿を見れば、何を言われるかなどわかったものではない。

(次、陛下と揉めることがあれば……)

 イブリーヌはこの世の全てに絶望し、亡霊の女王として生まれ変わるだろう。
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