呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
「とにかく」

 罰が悪そうな夫は咳払いをしてから仕切り直すと、自身の背中に回る手を無理やり胸元まで持ってきた。
 その後オルジェントは、彼女の指先に自らの手を絡めた。

「逃げても無駄だ。何度だって、追いかけ――捕まえてやる」
「へ、陛下……」
「俺は何があっても、君を離すつもりはない」

 彼の豹変っぷりに戸惑うイブリーヌは、彼の腕から逃れようとするが……。
 よく鍛え抜かれた身体は、びくともしない。

(こんなこと。今まで一度も、なかったのに……)

 二人は長い間、無言で攻防戦を続けていたが――最終的には、イブリーヌの方が折れた。

「私以外の女性に、よそ見をしては……駄目、ですよ……」
「ああ」
「約束、ですからね……」
「わかっている」
「今度、同じことが起きたら。私は……」
「君を勘違いさせるような行動は、慎むと誓おう」

 そこまで言われてやっと、イブリーヌは彼を信じてみようと言う気持ちになれた。

「……イブリーヌ……」

 繋いだ指先に力を込めて握り返せば、明らかに夫の目の色が変わる。
 彼女はよく耳を澄ませていなければ聞き取れないほどにか細い声で、王城を飛び出す前の発言を無効にすると告げた。
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