呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
(私が聞きたいのは、あなた達の声じゃない……!)

 オルジェント・ドゥム・アヘンドス。

 イブリーヌを恐れることなく、ありのままを受け入れた男性。
 彼が妻である自身を三年間も放置し、他所の女性を誑かした最低な人間なのは明らかだ。

 ――これからのことはどうなるか、今のイブリーヌにはわからない。

 後々、悪しき魂達が口々に囁く言葉こそが正しかったのだと、気づかされる羽目になるかもしれない。

(それでも、構わない、から……)

 彼女は深淵から無数にイブリーヌを捕らえようと伸びる、亡霊達の腕から逃れると――勢いよく走り出す。

(私はあなたを、好きになりたい……)

 強い願いを抱いたイブリーヌは、夢の世界から飛び出した。
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