呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
 夢の中から目覚めたイブリーヌは、見慣れた天井が視界いっぱいに広がった瞬間に息を呑む。

(もう二度と、戻ってくるつもりはなかったのに……)

 ヘスアドス帝国の寝室は、彼女を捕らえる鳥かごのようなものだ。

(また、一人寂しく……。ここで過ごすことに、なるのかな……)

 ここで暮らすと決意したが最後。
 オルジェントの姿を、遠くから見守ることしかできなくなる。

 これから自分が歩むであろう未来を想像したイブリーヌの瞳に、涙が滲んだ頃――。

「泣くな」

 愛する妻が意識を覚醒させたことに気づいたオルジェントが、彼女の瞳に溜まった涙を太い指先で拭った。

 まさか彼が自身の隣で、ベッドの上に横たわっているなど思いもしなかったのだろう。
 イブリーヌは、ぱちぱちと何度も瞬きを繰り返しながら、素っ頓狂な声を上げた。

「へ、陛下……?」
「居ないほうが、よかったか」
「そ、そんなこと……!」

 驚く妻に寂しそうな声で応えた夫の姿を目にした彼女は、何度も首を振って彼がそばにいる光景を喜んだ。
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