呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
「あの、陛下……。今日、お仕事は……」
「予定は未定だ」
「ええと……」
「強いて言えば、妻との交流を深める時間にしたい」

 どうやらオルジェントがイブリーヌに宣言した言葉は、嘘ではなかったようだ。

(聞き間違いでは、ないよね……?)

 信じられない気持ちでいっぱいの妻は、不安そうに彼の瞳を覗き込んで真意を確かめる。

 彼女と視線を合わせたオルジェントはその様子を目にして、イブリーヌがあまり気乗りしていないのではと心配になったようだ。

 先程までの有無を言わせぬ高圧的な態度から一転。
 妻を労るように抱きしめる力を強めながら、気まずそうに提案をする。

「君の都合が悪いのであれば、後日改めて……」
「い、今すぐがいいです……!」

 この機会を逃したら。
 また夫との距離が、遠のいてしまうだろう。

 そんな不安に駆られたイブリーヌは再び彼の胸元に縋りつくと、この場を離れようとした彼を呼び止めた。

「そうか。俺の妻は、最高にか……」

 口元を綻ばせた夫は優しい瞳で妻を見つめると、何を言いかけたが――。
 突然ピタリと、口を閉ざしてしまう。
< 82 / 209 >

この作品をシェア

pagetop