呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
 ――背中にあるべきものがない。

 それに気づいた彼は悔しそうに唇を噛みしめると、去り行く白猫の姿をいつまでも睨みつけていた。

「眠る時は……。手が届かぬところに、置かれているのですね……」
「……刃にカバーをかけてでも、背負い続けているべきだったと後悔している」
「で、ですが……。それだと、寝返りを打った時に……危険なのでは……?」
「そうだな。最悪の場合、流血沙汰になる」
「そ、それは駄目です……!」

 ベッドが血の海と化す光景を思い浮かべたイブリーヌは、大鎌を背中に背負い続けるのはやめてくれと夫に懇願する。
 慌てた妻の姿を優しい瞳で見つめた彼は、彼女に諭す。

「ああ。だから。ここで眠っている間は……。悪しき魂に呑まれぬよう、気をつけてほしい」
「亡霊達に、ですか……?」
「そうだ。今の君は、とても危うい状況にある。最後の一線を越えた時。イブリーヌは……」

 オルジェントが言いづらそうに止めた言葉の続きには、心当たりがあった。
 彼女はそれを引き継ぐように、悲しそうに目を伏せながら告げる。
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