呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
「私は、命を落とし……。亡霊達の……女王になるのですね……」

 妻の言葉を耳にした彼は、はっと息を呑む。
 彼は亡霊達からイブリーヌがなんの状況も知らされていないと、勘違いしていたからだ。

「知っていたのか」
「あの子達が、急かすんです……。早く、人間として生きるのをやめろ、と……」

 彼女は誤解を解くために、亡霊達に囁かれた言葉を告げる。

 どこか遠くを見つめ、苦しそうに伝えた妻が――どこかへ消えてしまうのではないかと危惧したのだろう。
 オルジェントは、険しい顔でイブリーヌに凄む。

「あいつらの声は、聞くな」
「……陛下が、私のそばにいてくださる限りは……。あなたの言葉だけに、耳を傾けたいです……」
「イブリーヌ……」

 潤んだ瞳の妻と、言葉にできない想いを瞳の奥に揺らす夫。
 二人の視線が混ざり合い、長い沈黙が訪れる。

(遠ざかった陛下との距離が……再び、近づいた気がする……)

 ――今なら普段は言いづらいことも、聞けるのではないか。

 そう判断した彼女は、恐る恐る夫の顔色を覗いながら。
 ある提案を試みた。
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