呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
「ふ、不意打ちは、卑怯、です……」
「そうか」
「は、はい」
「では、今度から許可を取ろう。口づけても、いいだろうかと」
「ひゃ……っ」

 妖艶に微笑んだ彼の口から、低い声で思わぬ提案が囁かれた。
 イブリーヌは思わず両目を瞑り、甲高い悲鳴を上げる。

(許可をしないと、口づけてもらえないなんて……!)

 そんなの駄目だと狼狽えた彼女はゆっくりと薄目を開く。

 興味深そうに愛する妻の困惑する表情を堪能しながら。
 美しい黒髪に触れ、口元へ持っていった彼を呆然と見つめた。

(ど、どうしてそんなに……。色気があるの……?)

 胸元のボタンは真面目で几帳面な彼らしく、きっちりとすべて止められているが――。
 挑発的な視線を妻に向ける夫には、隠しきれない真っ赤な炎が瞳の奥に揺らめいている。

(あれは……何……?)

 嫉妬とは、また違う。
 初めて目にした感情に目を見張った彼女は、得体のしれない何かに恐怖を抱き――。
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