呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない

「……すまない。まだ、これは早かったな」

　全身を小刻みに震わせる。
　彼は怯える妻の姿を目にして、そのまま襲いかかるほど自制が利かないわけではないようだ。
　彼女の髪の毛から手を離したオルジェントは、背中に背負っていた大鎌の鋭利な刃物の部分にけがをしないようにカバーをかけてから、イブリーヌの隣に寝転がった。

(ゴツゴツして、寝苦しくないのかな……)

　その様子を目にした彼女は夫の身体を心配そうにじっと見つめながら、全身の震えを止めるために自身の身を両腕で抱きしめる。

(今のは、拒むんじゃなくて……。受け入れる、べきだったかもしれない……)

　家族以外の人間とまともに会話をしたことのないイブリーヌは、対人スキルが圧倒的に足りなかった。
　距離を縮めたいと思っても、どうすればいいのかさっぱりわからないのだ。

(あの子達に助けを求めたところで、有意義なアドバイスをもらえるとは、限らないし……)

　オルジェントを嫌う亡霊達の言葉を信じて行動すれば、夫に嫌悪感を抱かれかねない。