呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
(もう二度と、仲違いなんて……したくないから……)

 イブリーヌは勇気を出して、徐々に彼の方へと歩み寄って行った。

「どうした」
「あ、の。陛下……」
「ああ。遠慮はいらない。俺に伝えたいことがあるなら、なんでも言ってくれ」

 オルジェントからそう諭された彼女は、先程まで不安だった気持ちが、一気にどこかへ吹き飛んでいくのを感じる。
 ぱっと表情を明るくすると、満面の笑みを浮かべて告げた。

「ありがとう、ございます……。私にたくさんの知識を、教えてくださって……」
「いや。俺は何もしていない」
「陛下がいなければ……っ。私は愛し子と死神の関係性を知らず、人生に絶望して……ここにはいられなかったと、思うので……」
「そうだな」

 イブリーヌが控えめに彼の胸元に身を預ければ、遠慮する必要はないとばかりに彼が力強く妻を抱き寄せた。
 それに驚いた彼女は目を見張りながらも、夫の暖かなぬくもりを堪能するかのように顔を埋める。
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