呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
「お礼が遅れてしまいましたが……。お母様の身体に乗り移った魂達を刈り取ってくださり、本当に、ありがとう……ございました……」
「礼には及ばん。夫として、当然のことをしたまでだ」
「陛下……」
「ミミテンス公爵夫人は君に、母親らしいことを、何一つしなかった。記憶から抹消しておけ。あんなのに、恩を感じる必要はない」

 彼女の黒髪を撫でつけた彼は、優しい口調でイブリーヌに諭す。
 その言葉を耳にした妻は、はっとした様子で夫を見上げる。
 オルジェントの唇から紡がれた言葉の真意を、探るためだろう。

「これからは、俺が君の家族だ」

 夫婦の視線が交わった瞬間、彼はうまく自分の伝えたいことを彼女が理解していないと気づいたのだろう。
 妻が誤解しないように言葉を重ねた。

(陛下だけが……私の家族……)

 オルジェントは最初こそ彼女を冷遇したが、誤解が解けてからは大切にイブリーヌを慈しんでいる。
 もう、ミミテンス公爵家で暮らす両親達から虐げられていた時のようなつらい経験は、しなくてもいいのだ。

(でも……)

 それに喜びを感じると同時に、彼女にはある懸念点があった。
 ――オルジェントに言い寄っていた、女性の存在だ。
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