琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
「おいおい、いつまで子どもだと思ってんだ。うちの奥さんと同じで葵羽ちゃんもう25だぞ」
滉輔さんが呆れたように頭を抱える。
私は瑠璃と違って誕生日が来ていないから正確には24ですけど。
まあそこは黙っておいた。
「ーーーそうか、そうだな。もう25か」
いえ、24ですけどね。
「じゃあ俺は会社に戻るから。迎えが必要だったら連絡してくれ。22時までなら会社にいる」
「滉輔、例の案件か。そんなに大変ならこっちから人を回そうか」
「いや、今週中には片がつくから大丈夫だ。長引きそうならまた頼む」
「OK。そっちは頼んだ。葵羽の帰りは俺が責任を持つから心配しなくていい。ーーーブラック企業で悪いな」
社長が滉輔さんの肩を叩き
「おう、これが済んだらたっぷり奢れよ。それとたまった有休も使うからな」
滉輔さんがそう返して笑いながら去って行った。
すごい人だな。仕事が出来て、部下に慕われ、友達思いで、愛妻家で妻の親友にまで優しく気遣いが出来るなんてなんていい人だろう。
上司であり親友の夫である滉輔さんの背中を見送っていると不意に目の前に影が落ち、社長に顔を覗き込まれていた。
「な、なんでしょう」
「まさか、惚れた?」
は?
「そんなわけないでしょう。滉輔さんは大事な親友の旦那様です。くだらないこと言ってないで早く行きませんか」
社長のあまりに的外れな発言にがっかりしてパーティー会場に向かって先に歩き出した。
「おっと待て。きみは夫を置いていくつもりか」
「その夫がくだらないこと言うから忘れそうになりました。すみません」
途端にくくくっと社長が笑い出す。
「言うようになったな。婚姻届を書くときには緊張しすぎて文字が震えて書けなかったほど純情でかわいかった女の子が、今や夫を忘れるとか」
「もうそれ忘れてもらえませんか」
くっと唇を噛みしめる。
あの時は緊張のあまり手震えがひどくて文字が揺れるし手汗はひどいしで3枚も書き直す羽目になった。
「次はきっともう大丈夫です」
「おや、葵羽は離婚して再婚するつもりなのか?」
社長が驚いたようにくいと眉を上げる。
「ええ、まず社長を開放して私の生活が落ち着いてそんな人に出会ったら、の話です。社長はしないんですか」
「・・・・・・考えたこともなかったな」
へえともそうですかとも言えなかった。
この人は噂の彼女さんとの将来を考えることはないんだろうか。
・・・あちらは考えているようですよとも言わなかった。なんかむかつくから。
「じゃあ行くか」
社長の手が私の腰に回される。
うわ、近い。
薄手のワンピースでは社長の手のぬくもりまで感じるし、社長には私のランジェリーのラインまで伝わっていそうだ。
「あの、これちょっと近すぎません?腕を組むくらいでいいような気がするんですが」
「不仲説払拭」
パシッと言い切られる。
「いえ、でも近すぎて歩きにくいんですけど」
「慣れろ」
えええー。
更に文句を言おうとしたらパーティーを中座してきたらしい見知った顔の人たちと出会ったため諦めて愛する夫にエスコートされる妻の顔を作った。
「諦めが早くて助かる」
顔を寄せられリップ音と一緒に耳元で囁かれ腰に何かが走った。
色気攻撃をするのはやめて欲しい。腰が抜けなくてよかったよ・・・・・・。
必死に何もなかったような顔をして足を進めたけれど私が大きなダメージを受けたことがわかっている社長はご満悦な様子だった。
くうううー。経験値のなさが悔しい。