琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
「それと、一度ご仏壇に手を合わせたいんだけど、お宅に伺ってもいいだろうか」
「あー仏壇ですか・・・・・・。えーっと今私は大政の家に住んでいないので事前に言っていただければ私も大政の家に向かいます」
「え?じゃあ大政の家は誰も住んでいないのかい?」
「いいえ、大政の親戚筋に住んでもらい管理をお願いしてあります。なので私がいなくてもお参りは可能ですのでいつでもどうぞ」
今住んでいるマンションに仏壇を持ってくるか悩んだ。
ただ仏壇というと両親だけのものではない。先祖代々のものだし、なんといっても大きい。
それに何年経っても仏壇に手を合わせに来てくれる人も多く私では管理できないのも事実だった。
だから大叔父の孫夫婦に頼んで実家の管理をお願いしているのだ。
マンションには両親の写真を置いて手を合わせている。
「お参りの際、妻の同席が必要でしたら私のところに連絡をいただければ二人で都合をつけますのでどうぞ」
妻と二人きりにはさせないとばかりに社長が隙なくさっと名刺を手渡す。
「あ、どうもご丁寧にありがとうございます」
思惑に気づいたらしい中林さんが苦笑していてちょっとばかり私の居心地が悪くなった。
「じゃあそろそろ私たちは失礼します。今週はゆっくり夫婦の時間が作れていないので少々妻不足でして」
平然とウソをつく社長にはもう慣れたけど、私の腰に置かれた手が少しだけ下に移動したのには驚いた。
ちょっと、そこはもうほぼお尻なんですけど?!内心ビクッとしたけれど、外には出さずに笑顔で軽く手の甲を抓ってやった。
するとお返しとばかりに髪にキスされる。
なんて心臓に悪いパーティーなんだろうか。
中林さんは引き攣った笑顔を浮かべ、キリギリス・・・なんて口が半開きになってるし。
社長も胡散臭い笑顔を浮かべているし私は頬の筋肉を総動員するのに大変だった。
なんとか会場を出ようとしたところで今度は社長がクレデオマテリアルの会長に声を掛けられ立ち話がはじまりそうだったので私は化粧室に行かせてもらった。
あの会長は発言が如何にも昭和と言う人物でセクハラもどきの言葉がポンポン飛び出すものだから女性と同席すると会長のおつきの方もヒヤヒヤしているのだ。
わたしが場を離れるとおつきの方がホッとした顔をしていた。あんなにべったりだったうちの社長も行っておいでと送り出してくれた。
ひとりになってのびのびと廊下を歩いて化粧室に入る。
あーひとりって歩きやすい。
個室から出てメイク直しをしていると、背後に女性が近付いて来るのに気づく。
一難去ってまた一難。お出でなすったって感じ。
鏡越しに私を見る目がきつーい。泣いちゃおうかな。泣かないけど。
「あらこんばんは。お一人ですか。今夜いらしていたとは知りませんでしたわ」
ちょっと苛々していた私は先制攻撃をした。
この人と話をするのは今夜が初めてではない。
今まで何度も社長の目の届かないお化粧室などで声を掛けられていた。
「こんばんは。書類だけの奥様」
ほらやっぱり攻撃してくる。
「私に何かご用ですか?」
「ねえ、クリスをいい加減に解放してあげたらどうかしら」
この女性は専ら社長と噂になっているお相手の方だ。
こう言ってくるって事はこの人は社長のことが好きなんだろうな、やっぱり。
私たちが同居実体がない夫婦であることを知っているっぽい。まさかと思うけど、もしかしたらこの人と半同棲ってこともある?
私は社長のプライベートをほとんど知らないから下手なことを口には出来ない。