琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?

パーティー会場に戻ろうとすると、近くのソファの背もたれに腰を預けるようにして立っている社長が目に入った。
そんな姿も決まっているのがまたむかつく。

「さあ帰ろうか」
また腰に手を回されエスコートされて歩き出した。

彼のスーツと私の左半身がピタリと寄り添い、私の腰に社長の手の体温を感じた。
この人、夕方にもこうやってあの女と一緒にいたのだろうか。
ああ、なんだか心がざらざらする。

無人のエレベーターに乗り込むと社長が大きく息を吐いた。
ずっと近くにいたけれど、ニンニク臭はしないと思う。
隣に立つ社長の顔を見上げるとその唇が目に入り、彼女に言われたキスの話が甦ってきてまた心がざらつく。

「葵羽も疲れただろう。家に帰ったらきちんと風呂に入って早く寝るんだぞ。髪をしっかりと乾かして、腹を冷やさないように冷たいものを飲み過ぎるのもダメだ」

は?
子ども扱いの馬鹿にしたような社長の物言いに私の中の何かがぷちんっと切れた。

ぱっと身体を離し、エレベータの壁に向かって社長を突き飛ばす。
突然の暴力行為に社長は驚き呆然とした顔で私を見つめている。

「どうしたーー」

ぽかんと中途半端に開いたその口を見て衝動的に社長の首に手を回してその唇を自分の唇で塞ぐ。

元々開いていた唇だったからそこに自分の舌をねじ込むのは簡単だ。
逃げられないようにぎゅっと抱きつき彼の舌を探すようにねっとりした濃厚なキスをする。
頬の内側の粘膜と舌の感触が何ともいえない。

エレベーターの箱の振動でエントランス階に着いたのがわかり唇を離して社長の身体を解放した。
社長は自分が何をされたのかわかってないんじゃないかってくらいまだ呆然としていて、そんな彼の表情なんて今まで見たことがなくてーーー笑えてきた。

「彼女さんに全然ニンニク臭くなかったって伝えてください。わたし一人で帰れます。それじゃあ今夜はお疲れさまでした」

「あ、おい」
扉が開いて歩き出そうとした私の腕を社長が掴んだ。

「イタッ」

馬鹿力の彼女と同じところを掴まれて思わず悲鳴を上げてしまい驚いた社長が慌てて手を引っ込めた。

「どうした」

「そこ、痛いから」

彼の顔を見ると端正な社長の唇にべったりと私の口紅が付いていた。
自分のしでかしたことに気が付き血の気が引く。

開いた扉からエレベーターを飛び出し真っ直ぐタクシー乗り場へと走り出した。

走り出してすぐ名前を呼ばれたような気がするが社長は追ってこなかった。

運良く停まっていたタクシーの座席に滑り込み、自宅の住所を告げる。
走り出してから自分の唇に手を当てた。
思い出して血液が逆流したように身体が熱くなる。

やばいやばいやばい。
私なんてことをしちゃったんだろう。
思いっきりイヤらしいキスを社長にしてしまった。

いくら苛々してたっていってもアレはやり過ぎだーーーー

後悔しても今さらどうにもならないけど、どうしよう。

今さらだけど、心臓がばくばくする。

知らなかったけど、わたしって怒りがたまると暴発するタイプだったみたいだ。
じゃなかったら自分から社長にあんなキスを仕掛けるだなんてあり得ない。

妻だけど妻じゃないのに。

これからどんな顔して社長に会えばいいのー
誰か教えてぇー




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