琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
あの時の事情
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逃げられた。
エレベーターから飛び出した妻を追いかけようとした途端運悪く扉が閉まりかかり再度開けていたら思ったより足の速い妻はもうエントランスから出て行くところだった。
こんなことなら裾にスリットの入ったワンピースなんて選ぶのではなかった。
おまけに彼女の伸びやかで綺麗な足をこの場に居合わせた何人もの男たちが目にしてしまったではないか。
100パーセント俺のミスだ。
それにしても、こんな情熱的な口づけが出来るなんて葵羽はいつの間に大人になっていたのだろう。
彼女にこんな口づけを教えた奴は誰だ。
その誰かを殴りつけたい激情に駆られる。
俺の知る限り結婚をしたこの2年半葵羽に男の気配はない。
滉輔からもそんな報告はあがっていない。まさか滉輔が・・・イヤそれはないな。
アイツの奥さんは葵羽の親友だ。
だとしたらどこであんな口づけを覚えてきたのか。
ちっ
思わず舌打ちが漏れ拳を握りしめてしまった。
スマホを取りだし電話をかけようとすると隣に見知った女が近付いてきて俺の腕に纏わり付いた。
俺の好みではない香りも纏わり付いてくる。
「やめていただけませんか長谷川社長」
絡みついた腕を外すとムッとしたように女の眉間に皺が寄る。
「冷たいのね、夕方は一緒にいた仲なのに。夕食も共にしたじゃないの」
「失礼ですが、言葉の使い方に気をつけないと誤解の元になります。確かに同席しましたが契約の確認のためでしたよね。あれはイタリアンレストランの試食会であって二人きりで夕食を共にしたわけではない」
目を細めて女の顔を見やると俺の顔を凝視した女の顔の方がみるみるうちに般若のように変化する。
「あなたの口に口紅がべったりついているわよ。みっともないったらないわ」
「そうか。気が付かなかったな」
手の甲で軽く拭うと妻のつけていた赤いルージュが付いてくる。
こんなところに愛の名残があったのか。
なぜかとても気分がよくなって自分の唇をぺろりとなめた。
「やめて、どうしたの。あなたそんな下品なことをする人じゃなかったでしょ」
「君にとっては下品なのかもしれないが、私は妻とのキスの余韻を楽しんでいるだけさ。それが不愉快ならここから立ち去ることをおすすめする」
「何なのよ。あの子もあなたも。ーーあの子なんてすっかり生意気になってるし。ほんっと腹が立つったら」
鼻息が荒い女の言葉が引っかかる。
「長谷川社長、キミ今日うちの妻と接触したのか」
俺の知る限り、今日のパーティーで会話を交わす時間はなかった。俺が張り付くようにずっと一緒にいたのだから。あったとしたら彼女が化粧直しに行ったときだけ。
俺の言葉にはっとしたように女が口ごもる。
「・・・・・・化粧室で会っただけよ」
「妻に暴力行為はしていないよな?」
エレベーターでとっさに掴もうとした妻の腕。軽く触れただけで悲鳴を上げたことを思い出した。俺に触れられて悲鳴を上げたのかと思ってちょっとショックだったが違ったらしい。
コイツが何かやったのか。
「こちらは訴えることも可能だが」
「やめて。ちょっと掴んだだけよ。爪も立ててはいないわ。肌が弱いんじゃないの」
ちょっと脅すようなことを言うとすぐにぼろを出してくれた。
それにしても腹が立つ。妻の腕を掴んだというのか。
「掴んでどうした。掴んだだけじゃないだろ。何かしたのか、それとも何か言ったのか。返答次第では覚悟してもらおうか」
この女が俺に執着していることには気づいていた。
確かに何度かプライベートでも食事をしたことがある。
勿論結婚前の話だ。
それからはビジネスオンリーの付き合いだが多少会食の回数が他の関係者より多かったことは否定できない。
この女の経営者としての能力は買っているし、流行を先取りする力も賞賛に値するからだ。
この力を利用していたのも事実。
だがもう手を引くべきだ。いや手を引くのが遅かった。
まさか直接的に妻に何かを仕掛けていると思わなかった。
これは間違いなく完全に俺のミス。
逃げられた。
エレベーターから飛び出した妻を追いかけようとした途端運悪く扉が閉まりかかり再度開けていたら思ったより足の速い妻はもうエントランスから出て行くところだった。
こんなことなら裾にスリットの入ったワンピースなんて選ぶのではなかった。
おまけに彼女の伸びやかで綺麗な足をこの場に居合わせた何人もの男たちが目にしてしまったではないか。
100パーセント俺のミスだ。
それにしても、こんな情熱的な口づけが出来るなんて葵羽はいつの間に大人になっていたのだろう。
彼女にこんな口づけを教えた奴は誰だ。
その誰かを殴りつけたい激情に駆られる。
俺の知る限り結婚をしたこの2年半葵羽に男の気配はない。
滉輔からもそんな報告はあがっていない。まさか滉輔が・・・イヤそれはないな。
アイツの奥さんは葵羽の親友だ。
だとしたらどこであんな口づけを覚えてきたのか。
ちっ
思わず舌打ちが漏れ拳を握りしめてしまった。
スマホを取りだし電話をかけようとすると隣に見知った女が近付いてきて俺の腕に纏わり付いた。
俺の好みではない香りも纏わり付いてくる。
「やめていただけませんか長谷川社長」
絡みついた腕を外すとムッとしたように女の眉間に皺が寄る。
「冷たいのね、夕方は一緒にいた仲なのに。夕食も共にしたじゃないの」
「失礼ですが、言葉の使い方に気をつけないと誤解の元になります。確かに同席しましたが契約の確認のためでしたよね。あれはイタリアンレストランの試食会であって二人きりで夕食を共にしたわけではない」
目を細めて女の顔を見やると俺の顔を凝視した女の顔の方がみるみるうちに般若のように変化する。
「あなたの口に口紅がべったりついているわよ。みっともないったらないわ」
「そうか。気が付かなかったな」
手の甲で軽く拭うと妻のつけていた赤いルージュが付いてくる。
こんなところに愛の名残があったのか。
なぜかとても気分がよくなって自分の唇をぺろりとなめた。
「やめて、どうしたの。あなたそんな下品なことをする人じゃなかったでしょ」
「君にとっては下品なのかもしれないが、私は妻とのキスの余韻を楽しんでいるだけさ。それが不愉快ならここから立ち去ることをおすすめする」
「何なのよ。あの子もあなたも。ーーあの子なんてすっかり生意気になってるし。ほんっと腹が立つったら」
鼻息が荒い女の言葉が引っかかる。
「長谷川社長、キミ今日うちの妻と接触したのか」
俺の知る限り、今日のパーティーで会話を交わす時間はなかった。俺が張り付くようにずっと一緒にいたのだから。あったとしたら彼女が化粧直しに行ったときだけ。
俺の言葉にはっとしたように女が口ごもる。
「・・・・・・化粧室で会っただけよ」
「妻に暴力行為はしていないよな?」
エレベーターでとっさに掴もうとした妻の腕。軽く触れただけで悲鳴を上げたことを思い出した。俺に触れられて悲鳴を上げたのかと思ってちょっとショックだったが違ったらしい。
コイツが何かやったのか。
「こちらは訴えることも可能だが」
「やめて。ちょっと掴んだだけよ。爪も立ててはいないわ。肌が弱いんじゃないの」
ちょっと脅すようなことを言うとすぐにぼろを出してくれた。
それにしても腹が立つ。妻の腕を掴んだというのか。
「掴んでどうした。掴んだだけじゃないだろ。何かしたのか、それとも何か言ったのか。返答次第では覚悟してもらおうか」
この女が俺に執着していることには気づいていた。
確かに何度かプライベートでも食事をしたことがある。
勿論結婚前の話だ。
それからはビジネスオンリーの付き合いだが多少会食の回数が他の関係者より多かったことは否定できない。
この女の経営者としての能力は買っているし、流行を先取りする力も賞賛に値するからだ。
この力を利用していたのも事実。
だがもう手を引くべきだ。いや手を引くのが遅かった。
まさか直接的に妻に何かを仕掛けていると思わなかった。
これは間違いなく完全に俺のミス。