琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
話の本題はその先だった。
突然のことに気が動転して泣いていた間に彼女が相続するはずだった会社の株式が専務をしていた社長の妹の夫である野木文吾とその息子のものになっていたのだ。
いつの間にかといっても後で見せてもらった契約書にはきちんと彼女の自身の字で署名があった。間違いなく自分で書いたものだったらしい。
それから副社長やサポートしていた多くの古参の管理職や従業員たちのほとんどが左遷や退職に追い込まれ、専務の野木が社長の座にも納まっていたのだ。
ただ元から彼女自身が持っていた株はまだ手元に残されていた。相続した預貯金や土地などもある。それがあれば今後しばらくの生活は困らない。
しかし、いま叔父たちはそれを含めた彼女自身を狙っているというのだ。
「従兄弟が”俺と結婚すれば全部守ってやる”って言ったんです」
求婚をしてきたのは叔父の野木文吾の息子の隆一。
幼い頃から親戚付き合いをしてきたが、愛情もなければ信頼もしていない相手。血縁である叔母は10年前に亡くなっていて既に野木の家には後妻がいる。
全部守ってやるじゃなくて全部奪ってやるの間違いだろう。
誰が見たってそんなことわかる。
現在21才で成人を迎えているとはいえ彼女はまだ大学生の身だ。
おまけに信用できる身内は数少なく彼らが彼女を野木の家から守れるのか怪しいのだと。
叔父と従兄弟の隆一からしつこく結婚を迫られ常に自宅にも野木の関係者が親族と称して泊まり込み見張っている。恐怖を感じた彼女が叔父たちの目を盗み親友の瑠璃のところに逃げ込んできたのが昨日の夜中のことだった。
「なんだ、それ」
許されない。そんなこと許していいはずがない。
その叔父たちに怒りを覚えた。
「よし。何が出来るか考えよう」
俺が言い切ると
「よかったな!葵羽ちゃん。コイツが味方に付いてくれたら心配ないよ。俺も協力する。絶対大丈夫だ」
「協力者がもうひとり増えたよ、葵羽。もうひとりじゃないからね」
滉輔が励ましやつの彼女が葵羽の頭を撫でた。
「ーーーうん」
言葉を発した葵羽がここに来て初めて顔を上げて俺を見た。
ぱちん。
お互いの目が合う。
ーーー驚いた。
大きな黒目が印象的な天使みたいな子じゃないか。
泣きはらした顔がかわいいとかーーこんなに物体見たことない。
けれど、葵羽は一瞬俺を凝視したと思ったらすぐに両手で顔を覆ってしまった。
俺を見た女性たちのよくある反応だから慣れているけれど、ちょっと残念だと思ってしまう。
日本人には見慣れない純度100パーセント外人の俺。
おまけに自覚するほどかなり整っている方だ。
女性が俺に見とれたり恥ずかしがって目をそらされるのは日常茶飯事だけど。
「あの、わたし・・・・・・いえ、えっと・・・・・・見ず知らずのわたしのために協力してくださること・・・・・・本当にありがとうございます・・・・・・すみません、ちょっとびっくりしてしまって・・・・・・」
俯いたまま顔を上げてくれない。
もう少し彼女の顔を見たいのに。
「てっきり滉輔さんのお友達は日本人だと思ってました。すみません、人種差別とかではないんです。日本語の発音が綺麗で違和感なくて、勝手に日本人だと。そうですよね、昔と違って日本生まれ日本育ちって方も多いし・・・・・・」
え、今ごろ?
そうか、来てからずっと俯いて泣いていたから、いま初めて俺の顔を見て外国人だと気が付いたのか。
「あーそっちかーーーごめん、先に説明しとくべきだった」
滉輔が葵羽と俺の顔を見比べて苦笑しながらこくこくと頷いた。
「俺ここに来るのにクリスのことちゃんとふたりに説明してなかったからさ。葵羽ちゃんここに来てもずっと俯いて泣いてたし、話してる間も声だけ聞いてたからお前のこと日本人だと思ってたんだろ。日本語が母国語みたいにペラペラ。しかもイケメンだし」
つまり?
彼女は俺の見た目ではなく流暢な日本語に驚いていたのか。
「ごめんごめん、瑠璃と葵羽ちゃんに先に言っておくべきだった。俺の親友のクリスはアメリカ生まれアメリカ育ち、生粋のアメリカ人。国籍はアメリカ合衆国。日本語がうまいのはコイツが努力したからって事で理解して」
「私もまさか話に聞いていた滉輔の親友が今日ここに来るまで外国人だったなんて思ってもみなかったわ。なんて綺麗な日本語なのかしら。しかも反則レベルの美形」
滉輔の彼女は口を尖らせ、葵羽は未だ口をぽかんと開けていた。