琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
葵羽から了承の返事が届いたのは翌日などではなく、たった1時間後のことだった。
葵羽はあれから15分で滉輔から俺の人となりを聞き出し、残り45分でもっとよく考えた方がいいと即決を渋る瑠璃を説得し俺を呼び戻したのだと滉輔が教えてくれた。
滉輔に呼ばれ部屋に戻ると、葵羽が正座し俺に向かって頭を下げた。
「私にとってクリスさんとの結婚が最善策です。どうか私に力を貸してください。そして、私がクリスさんのために役に立てることがありましたら協力させてください」
お願いします、ともう一度頭を下げる葵羽の腕に触れ頭を上げさせる。
「私はきみを葵羽と呼ぶから、私のこともクリスと呼んで欲しい」
「あ、はい。クリス、さん」
「クリス」
「くっ、クリス・・・・・・」
ちょっと距離を詰めて顔を覗き込むと葵羽の顔がほんのり赤くなり、さっきまで青白かったからよかったなんて思ってしまう。
そして片膝をつき葵羽の手を取った。
「大政葵羽。私は婚姻によってあなたを大切に守ると誓う。大政の姓から私の姓へ、シュミットとして生活して欲しい。どうか結婚してください」
目線を合わせ、真っ直ぐに葵羽を見つめると、
「結婚してくださいなんて、それは私の方からお願いします。極力クリスの邪魔をしないようにしますからーーーー私と結婚してください」
まさかの逆プロポーズ。
「もちろん、謹んで受けさせてもらおう」
葵羽の手の甲に唇をつけると脱力し真っ赤になった葵羽がくたりと床と同化してしまった。どうやら限界だったらしい。
「あ、あおばぁ~大丈夫?!クリスさん、やり過ぎですよ-。葵羽は美形に免疫ないんですから」
きゃあきゃあと瑠璃が騒ぎながら腰が抜けていそうな葵羽を抱き起こし、滉輔は呆れた顔で俺を眺め、俺は素知らぬ顔で婚姻届の書類をダウンロードするためにパソコンの電源を入れた。
***
「これは国際結婚するために必要な俺の書類。で、こっちはさっき頑張ってようやっと書き上げた婚姻届。じゃあこれを持って役所に出せば完了だな。葵羽、身分証明書ってある?免許証とかパスポートとか」
「それが、パスポートはあるんですけど、ホテルの部屋に置いてきてしまいました。コンビニに買い物に行くつもりで部屋を出ただけだので」
葵羽が申し訳なさそうに眉を下げる。
手の甲にキスしただけで腰を抜かした葵羽は婚姻届の記入をするのも大変だった。
あまりの緊張から手震えと手汗が酷く、ペン先で紙を破くこと2回、誤記入が1回。ようよう書き上げたのだ。書き終わったときにはぐったりしていてその姿もかわいらしくてにやけそうになった。
「いいよ、大政の家に置きっぱなしだったら厄介だなと思っていただけだ。下手したら奴らに取り上げられていたかもしれないし、ちゃんとそれだけじゃなく実印まで持って逃げ出していたなんてきみは賢いな」
おかげで手間なく届けを提出できそうだし実印もこちらにあれば安心だ。
「じゃあ俺は二人の荷物の回収に行ってくるな。瑠璃、荷物を纏めてもらわないといけないから一緒に行って」
「あ、うん」
滉輔に言われて瑠璃が立ち上がる。
私は?って感じで葵羽が瑠璃と滉輔、そして俺の顔を見た。
「葵羽はもちろんお留守番だな。届けを出すまでここから出るのは危ない」
当たり前だが、まだ安全は確保されていない。
「あ、いえ。待っている間私がここで何か出来ることはないかと思いまして」
へぇ。
予想より遙かに頭の回転がよく気も利くらしい。
この結婚をわずか1時間で決めてしまうほどの決断力もあるし。
この出会いを神に感謝する。
心の中で歓喜したがもちろん顔には出さない。
葵羽は今はまだこの俺の邪な想いを知らなくていい。
今はまだーーー