琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
翌日、婚姻届を提出して俺たちは夫婦になった。
婚姻届を出したその足で大政の本社に向かい、野木親子に結婚の挨拶という名の宣戦布告をした。
奴らは怒りで震えていたが、表面上は葵羽の良き叔父の皮を被っており若い姪の突然の結婚を心配していた。
「家族が欲しかったのかい?なら俺たちがいるじゃないか。こんな外人じゃなくて俺の方が可愛がってやるのに」
隆一が青い顔で今なら結婚を無効に出来るんじゃないかなんて言い出したときは俺の隣にいた葵羽の方が怒りで震えていた。
「仮にも喪中に結婚する必要はあったのか。ずいぶんと非常識なことをするものだね」
野木社長は苦虫をかみつぶしたような顔をしてこちらを睨んでくる。
喪中期間が明けたらお前が強引に葵羽と自分の息子を結婚させていただろうからな。
人事を含め汚い手を使っていたが、さすがにこの男も喪中に姪と息子を結婚させることは大きな醜聞になるからできなかっただろう。だからこそこちらもこの手が使えたのだ。
「それにいつの間にうちの姪と付き合っていたのかね。葬儀にも顔を出さなかったような関係じゃないのか。まさか姪の財産狙いじゃないだろうね」
「叔父さんやめて」
ここに来る前に葵羽にはできる限り口を開かないようにと言い聞かせていたが我慢できなかったのだろう葵羽が声を出した。
大丈夫だよと葵羽の膝に置いていた手で彼女の膝を優しく撫でてやる。
「ぐっ」
それを目にした隆一の顔が真っ赤になった。憤怒にに駆られて叫ばなかったのは褒めてやろう。
因みに、ここのソファーに座ってからずっと俺の手は葵羽の膝の上に置かれ、葵羽の腕はこの部屋に入るずっと前から俺の腕に絡みついている。
そんな俺たちの姿を見て隆一の目に嫉妬の炎が灯っていることには気が付いていた。
財産狙いってそれはお前たちのことだろうが。まあ隆一に関しては葵羽に歪んだ愛情もありそうだ。
「私にもそれなりの財産がありますので、妻の財産を当てにするような情けない男ではありませんよ。それよりもやっと見つけた愛しい人を誰かにとられないように婚姻という鎖で縛っておきたかったんです。ただ非常識なことは重々理解していますから当面は大政の関係者以外には公表することもなければ祝いの席を設けることなどすることもありません」
「ふんっ、信用出来んな」
「まあ信用していただくしかありませんが」
不機嫌を隠さない野木にこちらも作り笑顔で応える。
「ではご挨拶はしましたから。我々はこれで失礼します。ーーああそうだ、葵羽は私の妻ですのでこれからは私の庇護の元生活します。こちらの世話にはなりませんので」
「いや、いきなり現われて勝手なことを言わないで欲しいね。葵羽は私の姪で義兄夫婦はもう故人なんだ。私が保護者と行っても過言ではないだろう。面識のないきみのことは信用できない」
「保護者?葵羽はもうとっくに成人してますが」
結婚にお前の許可はいらないと匂わすと野木は更に渋い顔になる。
「だが、叔父として姪が幸せかどうかは確認させてもらう。定期的に面会させてもらおうか。幸せにするというのなら幸せにしている姪の姿を見せてくれてもいいだろう?」
「・・・・・・まあいいでしょう」
俺が了承すると、え、と葵羽が小さく不満の声をあげた。
葵羽を目で制し面会の取り決めをして俺たちは大政のビルを出た。