琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
結婚したものの実は夫のクリスが何をしている人なのかよくわかっていない。

会社をいくつも持っている経営者みたいな感じって説明されていた。
結局それがいくつあってそこの会社が何をしているのかとか、よくわからないのである。

就活で困っていたらやはり夫が手を差し伸べてくれて、彼の持つ会社の1つに秘書として入社させてくれたのだ。
とりあえずそこでわたしの適性を見て改めて職場を紹介してくれるということで話が付いていたのだが。

そこでちょっとした洗礼を受けた。

所謂女子社員からのかわいがりである。
初めから社長の妻であることは隠していなかったせいで社長のいないところでの教育的指導という名目の嫌がらせと口撃。

まあこれはわたしも悪い点があった。
結婚と同時に彼のことを”クリス”と呼び捨てるように言われていたからつい癖で会社でも同じように呼んでしまったのだ。

彼女らから公私を分けるべきだと強く言われて私も反省した。
それからはいつ何時も彼のことを「社長」と呼んでいる。これに関して彼は嫌がっていたけれど、プライベートでクリスと呼んでいたら仕事中にも呼んでしまうから無理と説得した。

しかし、社長の方はわたしのことを「葵羽」と呼ぶものだからやはり社長ファンの女性社員の目が痛かった。

しかし、既婚者でお子さんもいるベテラン女性秘書と男性秘書さんはとても親切で、丁寧に仕事を教えてくれてとても助かる存在だった。
なんと言っても社長は多忙で会社にいる時間なんてごく僅かだったから。

「ある日突然シュミット社長の左手に指輪があって、デスクには結婚写真が飾られて。社内がパニックになったのよね。社長を狙ってた女子たちは暫く使い物にならなかったわ」

「わたしも社長からいきなり結婚するから3日間休むと言われて仰天しました」

二人にいわれて、その節はご迷惑をおかけしましたと頭を下げた。

しかし、デスクに私たちの結婚写真・・・・・・外人かよ。ってああ外人だったわ。

わたしも初めて社長室に入ってそれを見つけた時驚いたもの。
飾ってあるのは一枚二枚じゃなかったのだ。4枚ってそんなに必要???

しつこく写真を撮られたのはこのためか。
衣装を替え、場所を変え・・・・・・ああ遠い目になる・・・・・・

社長はこうやって社内にも既婚者アピールしていていた。

わたしが暮らす部屋の広いリビングにも既婚家庭の雰囲気を出すためか、ウエディングドレスとタキシード姿の私たちの写真が額装されて飾られている。
恥ずかしいからはずそうと思ったけれど、どうやってあるのか額が壁から外れなくて結局諦めて今に至る・・・・・・。
小さいものは片付けさせてもらったが。

「今の時代、簡単に辞めさせることは出来ないけど、理不尽な嫌がらせ指導をした社員は社長から離れたとおーくに異動になるんだろうね。彼女たち社長にバレてないと思ってるけど、バレてるから」

「すっきりするわね」

「あの、わたし社長にはなにも言ってませんけど、バレてるってーーー?」

「あら、壁に耳あり、障子に目ありってね」
「そうそう」

二人の先輩社員が嬉しそうに話すのをわたしは心の中でぞっとしながら聞いていた。

ーーーーどこの壁と障子に誰の耳と目があるのだろう。恐怖だ。



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