琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
「葵羽さん専攻は経済だっけ?経理の勉強もしたんでしょ。もしかして秘書検定も持ってる?」
「はい」
元々は大政に入って父親の元で働くつもりだったから、役に立ちそうなことを学んできていた。父は人柄はいいけど、経営者としては・・・と言われていた人だったから何かフォローができないかと思っていたのだ。
「葵羽さんに足りないのは経験だね」
「うん、わたしもそう思うわ。基本的な知識は問題ないと思う。だけど会社の中では知識だけではどうしようもない場面ばかり。経験を積んで応用して世の中渡っていかないと」
「経験ですか」
こればっかりは時間が必要で今すぐにはどうしようもない話だ。
だけど、それ以外のことに関してお二人は一定の評価をしてくれたのだということで。
今まで勉強してきたことがムダではなかったのだと言われたようでとても嬉しい。
「だけど、たぶんこのままここに就職ってコトにはならないだろうな」
「そうねー。わたしもそう思うわ、残念だけど」
二人が残念そうにため息をつき、気の毒そうな表情をしてわたしを見た。
「ここには不要ってことですねーーー」
就活もせずにコネで入ったところだ。わたしには分不相応なのはわかる。
でもお前の居場所はここにはないと言われるのは思ったよりずっと堪える。
気持ちがずーんと沈んだ。
「ああ、役に立たないってことじゃないのよ。ごめんなさい、勘違いしないでね」
「恐らくというか、間違いなく近いうちに葵羽さん恵比寿の会社に行かされると思うんだよね」
恵比寿?
お二人は困ったような気の毒そうな複雑な表情でわたしを見ている。
「恵比寿の会社ってシュミット社長が持ってる別の会社だよ。コンサル業務の。そこに葵羽さんを入れてここと同じように小バエを退治するんじゃないかな」
は?
ど、ど、どいうこと?
「うちの会社って社内結婚も多いんだけど、だからなのか社長に色目を使う社員もいてね。今までは仕事が出来ればって事で大目にみてたたところもあったんだけど、この際それもやめて大掃除することにしたみたいだよ。ここが予想以上にうまくいったから社長は違うオフィスでもこの方法で掃除しそうだなと思って」
そう言う男性秘書に女性社員も頷いた。
うわあ。
確かに社長と結婚するときわたしに出来ることは協力するって言った。
それってこういうこと?
そっかー、そういう使い方もアリだわーーーーーわあおおおぅーーーー
それから
彼らの言ったとおり私は恵比寿の会社に異動になり同じようなことを経て、もう2つ他の会社を巡ってやっと南青山にある今の会社に落ち着いた。
ここはデザイン系の仕事をしているところで責任者は晃輔さんだ。
クリスは社長という肩書きを持ってはいるけれど、実質ほとんど晃輔さんがその役割も担っている。なぜなのかは聞いたことがない。
ここには商業デザインをする人と工業デザインをする人の二種類の部署が存在している。そしてそれぞれも勝手に働いていて会社組織というよりフリーランスの集合体といった感じだ。
よくよく聞いてみれば大手にいたけれど、体質が合わなくて退社したとか独立してみたけどうまくいかなかったとかスタッフには訳ありの人が多い。
自分も訳ありといえばそのようなものだし、ここの人たちは癖が強いものの社長の妻であることに対して悪意を示すようなことがないような人たちだったのでわたしも難なくここに溶け込むことが出来たのだった。
ここに腰を落ち着けるようになって変わったことといえば、あまり社長に企業のパーティーなどに連れ出されなくなったことだ。
顔見せが済んだってことだったのかもしれない。
だからこそ、不仲説が流れそれを払拭するために今回必要以上のイチャイチャをすることになってしまったのだから、アレをしなくて済むように普段から適度にわたしのことを連れ出して欲しいと切に思う。