琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
昨夜のことを思い出してため息が出た。

社長に気がある女性からの嫌味など今までいくらでも流してきたというのに。

彼女は夫の愛人疑惑がある人だった。
フードコーディネーターの資格を持ち無農薬食品の国内外の流通関係の会社の経営者だ。

何度かデリの店やカフェで出会い、その度に不躾な視線と共に嫌味を投げつけられてきていた。

彼女とは一昨日も出会っていたのだ。
たまたまランチで入ったカフェで。

わたしの連れが若くて気弱そうな若い女性の莉子だったからだろうけど、堂々と不倫を匂わせる言葉をかけられた。というか自分の言いたいことだけ言って出て行ってしまった。
わたしに反論の時間はなかった。あったとしてもしなかったけど。

「なんですか、あのひと」
莉子が憤慨していた。

「うちの夫、モテるから。滉輔さんには内緒にしておいてね」

一緒にいたのが瑠璃じゃなくてよかった。
瑠璃だったらがっつり噛みついていただろうし、滉輔さんにも即報告されていただろう。
そうなったら面倒だ。

わたしは恋人など作る気はないけれど、それをクリスにまで要求するのは可哀想。男性にはいろいろ欲とかもあるだろうしね。

「ああいう港区女子代表って人種、わたしは苦手です」

「うん、わたしも」

莉子の意見に同意である。

そんなやりとりがあった上での昨日のパーティー。

わたしは心身共に疲れていて感情がおかしな事になっていたんだと思う。
子ども扱いされたからといって突き飛ばしてキスするとは。

うーんーーーー

特別な用事がなければ社長はうちの会社に顔を出すことはないし、電話もメールもないからこのまま知らん顔をしておけばいいのかもしれないけど。
それに向こうだって愛人さんとの仲を深めるのに忙しくてわたしの相手をする時間などないかもしれないし。

あ。
ーーーそっか。
合わせる顔がないと思っていたけど、そうだ、そもそも会わないから問題ないのでは。

基本的に放置されているのだから、今さらといえば今さら。
幸い定期の叔父との面会も済んだばかりだし。

なあんだ、会わないから大丈夫じゃん。

それにさ、あっちはポーズとはいえ恥ずかしげもなく人前で髪やらほっぺやら額にちゅうしてくるんだから、今までの2年半分のを合計してポイントにしたら昨日のわたしのやらかしのキスの方が総合ポイント的には低いと思うのよね。

うんうん、大丈夫、大丈夫。

さあ午後からの仕事に間に合うようにお風呂に入ってストレッチして朝食食べて、このむくんだ顔をすっきりさせなくちゃ。


元来切り替えは早いほうである、
気持ちを切り替えたわたしはバスルームに向かった。




< 33 / 96 >

この作品をシェア

pagetop