琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?


新緑の街路樹の葉が風に揺れている。
今日はお天気もよくて日差しが目に眩しい。

週末でも無いのに表参道は人通りが多くあちこちのブランドショップの前に入店待ちの列が出来ている。
並んでいる人からだけでなく歩いている人からも痛いくらいの視線を感じるのは仕方の無いことだろう。
美形の外国人って物珍しいし。私も初めて見たときはハリウッドスターかと思ったもの。

「最近変わったことは無かったか」

「別に。Cチームの森下さんとIチームの小沢さんのいがみ合いは無くなったし、梅野さんの女性関係は相変わらずだけど、トラブルにはなってないみたいだし。ああこの間入れて貰った業務用空気清浄機はとってもいいです。湿度調節もついて肌にも優しくて花粉対策もバッチリ」

「葵羽、会社のことじゃない。君の周りのことだよ」

「ああ、私のですかーー」

そう言われて思い出すのは・・・・・・。

「仕事から帰ったらうちのベランダでネコが鳴いてて。どこから来たのかわからないからコンシェルジュに連絡したら下のお部屋のネコちゃんだったって事がわかってすぐに飼い主の方がお迎えに来てくれました。変わったことと言えばそのくらい。特に報告するようなことはないと思います」

「迷いネコ・・・」

「大政の家の方からは何も無かったから、心配しないで」

「・・・・・・ならいい」

微妙に漂う緊張感。
これが正しい夫婦の関係であるはずがないけれど正しい上司と部下の関係でも無いだろう。
でも私たちはれっきとした夫婦である。
日本のみならず彼の国でもきちんと認められた夫婦である。
ーーーあくまでも書類上だけど。

「いつまでも解放してあげられなくてごめんなさい」

「いや、いつも言うけど、そのことは気にするな。私が好きでやっていることだし迷惑だとは思ってない。それに俺も君という嫁がいることのメリットの方が大きいし」

本当にそう思っているのか、そう思っているのは彼だけなのか。隣を歩く男の表情からはその考えを読み取ることは出来ない。
それが同じ日本人では無いからなのかこの男が無表情のせいなのかわからないけれど。
どちらにしても心を読めるだけの親しい関係じゃ無いのだから仕方ない。

「不自由じゃないの?」

「そんなことはない。何度も言わせるな。君の存在はありがたい」

そう不機嫌そうに言いながら不意に不敵な笑みを浮かべたと思ったら急に顔を寄せ私の側頭部の髪に唇をつけた。
小さくもないリップ音が耳に残る。

美形の外国人がするキザな仕草を運悪く目撃してしまった偶然すれ違った女性たちの小さな悲鳴のような声が聞こえ、うちの夫がすみませんと心の中で詫びておく。

こういうのって日本人には見慣れない仕草だ。
平静を装っているけれど、私だって平気ではない。心の中はバクバクしている。

「誰かいたの?」

「ああ。メイセイの社長夫人とその愛人がそこのブランドショップの店内からこっちを見てた。向こう側のカフェのテラスにはコシバの社長の娘がいたね」

「そう。いい宣伝をしてくれそうね」

メイセイの社長夫婦といえばどちらも愛人を抱えた愛をたくさんお持ちの人たちだ。特に夫人は他人の恋愛の噂が大好物ときている。今私たちに不仲の噂が出ているのならこれを見てそれを払拭してくれるに違いない。

コシバの社長令嬢の方は噂話をする雀ではなく彼に言い寄る方の人種だ。
彼は一応既婚者なのだけどそんなことはお構いなしなのか私みたいな平凡な女から奪うのは当然だと思っているのか私がいても平然と彼に触れてくるような人だ。

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