琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
「わたしが忙しくしているせいで妻に寂しい想いをさせているからね。君たちスタッフが気を遣って妻を食事に誘ってくれていると聞いているよ。これからは妻にさく時間を増やすつもりでいるのだけれど、寂しそうにしていたらまた声を掛けてやって欲しい。ただ、二人きりはダメだよ。葵羽はわたしの大切な妻だからね、わたしが妬けてしまう」
社長の手が私の肩にまわり、引き寄せられてわたしの身体が社長の胸にぶつかった。
「あ、やだ。お化粧が付いちゃうわ」
不意打ちだったから思ったよりわたしの顔が勢いよく当たってしまい社長の高級スーツとネクタイが心配になる。
社長は伊勢さんにはああ言ったけど私たちに今夜出かける予定はない。
もしかしたら面談内容を聞かれていたんじゃないかなと思うようなタイミング。
今夜もわたしを送ったあと、彼はどこかに出掛けて行くのだろう。だからネクタイやスーツを汚してしまっては申し訳ない。
「大丈夫だよ。それに今夜行く店はそんなこと気にしなくていいところだから」
社長はわたしのつむじに軽いキスをした。
「そう?ならいいけど」
それを嬉しそうに受け入れる私。
悲しいかな条件反射のようなもので社長の猿芝居にいつものようにお付き合いしてしまう。
愛されている妻の振り。
「社長、申し訳ありませんでした。つい他のスタッフと同じように声を掛けてしまいました。よくスタッフたちで食事をしているものですから。奥様はいつも参加してくれますし、社長は今日もいらっしゃらないのかと・・・・・・」
伊勢さんが気まずそうに口ごもる。
普通ならそうよねー、自分のところの社長の奥さんを食事に誘っているのを旦那である社長に見られちゃったんだから。
でもウチの場合、注意は見せかけだけだから心配しなくても大丈夫だよと言ってあげたくなる。言わないけど。
「本当にすみません。今日も葵羽さんはお一人かと思ったのでーーー」
「ああ、きみの心配はたまに出てくる私たちの不仲説かな。噂なんて勝手でいい加減なものだよ、ねえハニー?」
わたしの髪をすくう社長に無言で微笑んでおく。
社内ではいつものように『ええダーリン』とは言えない。さすがに。
べったりくっついて立っているだけで十分だろうと思うし。
「ではわたしはここで失礼します。葵羽さん、今日はありがとうございました」
社長も伊勢さんもそれ以上は言わず、伊勢さんは軽く頭を下げてデザイン室に戻っていった。
うん、何だか伊勢さんに申し訳ないことをしてしまった。まさか蕎麦屋へのお誘いを社長に聞かれていたとは。
おまけに二人きりで行ったことも注意されてしまって。さすがに雇い主からの注意は気になるだろうし、明日にでもフォローしておこう。
伊勢さんの背中を見送っていると
「彼が気になるのかな」と頭の上に声が落ちてくる。
身長差があるせいでくっついて立っていると社長の顔はわたしの頭の上だ。
「気になりますよ。同じ会社の社員ですし、伊勢さんは将来を期待されているデザイナーのひとりですし」
「気になる異性ではないの?」
はあ?
「同僚ですけど。まさか本当にふたりで食事をしたのが気に入らないんですか」
それにしてもめんどくさい、この人。
自分は好き勝手に遊んでいるのに。
お蕎麦屋さんでふたりで食事をしたのは間違いない。
けれど店の前で偶然一緒になっただけだ。お互いひとりで入ろうとしていたから一緒に入ったってだけだし。
ちなみに後輩の莉子は蕎麦アレルギーでこの店には誘えない。
「そうかもね」
「・・・・・・」
社長のアルカイックスマイルにいちいち相手をするのが面倒で返事をするのをやめてやった。
事務室に戻るともう誰もいなかった。
残っていた営業部員のネーム横には帰宅のプレートがかかっている。
「さて、わたしの方は業務終了しました。社長はいかがですか。さすがに今日は一緒に会社を出ないとまずいでしょうし、タクシーで送ってくれます?」
「おいおい、ディナーに行くと言っただろう」
「ご冗談でしょ」
結婚以来どうしてもという会食以外で社長と食事をしたことはないし、二人きりで食事なんてことは一切ない。
せいぜいお茶を飲むくらいだったのに。
わたしの言い方が気に入らなかったのか社長は整った眉をちょっと寄せ琥珀色の目を細めた。
「予約をしてあるから帰る支度をしなさい。ああ落ちたメイクも直す時間も必要かい?」
命令口調だし、嫌味混じってるし。
こちらもちょっとカチンとする。
「わたしに予定があるかの確認はしてくれないんですね」
「ーーー今夜は夫を優先して欲しい。話があるから付き合ってくれ」
社長の譲らない態度にわたしは心の中でため息をつく。
「わかりました。メイクを直してデザイナー室に声を掛けてきます。5分で出られますから」
だってそう言うしかない。
この関係は夫婦ではなく主従のようなもの。
この人がいなかったらわたしは今頃・・・・・・。
社長の手が私の肩にまわり、引き寄せられてわたしの身体が社長の胸にぶつかった。
「あ、やだ。お化粧が付いちゃうわ」
不意打ちだったから思ったよりわたしの顔が勢いよく当たってしまい社長の高級スーツとネクタイが心配になる。
社長は伊勢さんにはああ言ったけど私たちに今夜出かける予定はない。
もしかしたら面談内容を聞かれていたんじゃないかなと思うようなタイミング。
今夜もわたしを送ったあと、彼はどこかに出掛けて行くのだろう。だからネクタイやスーツを汚してしまっては申し訳ない。
「大丈夫だよ。それに今夜行く店はそんなこと気にしなくていいところだから」
社長はわたしのつむじに軽いキスをした。
「そう?ならいいけど」
それを嬉しそうに受け入れる私。
悲しいかな条件反射のようなもので社長の猿芝居にいつものようにお付き合いしてしまう。
愛されている妻の振り。
「社長、申し訳ありませんでした。つい他のスタッフと同じように声を掛けてしまいました。よくスタッフたちで食事をしているものですから。奥様はいつも参加してくれますし、社長は今日もいらっしゃらないのかと・・・・・・」
伊勢さんが気まずそうに口ごもる。
普通ならそうよねー、自分のところの社長の奥さんを食事に誘っているのを旦那である社長に見られちゃったんだから。
でもウチの場合、注意は見せかけだけだから心配しなくても大丈夫だよと言ってあげたくなる。言わないけど。
「本当にすみません。今日も葵羽さんはお一人かと思ったのでーーー」
「ああ、きみの心配はたまに出てくる私たちの不仲説かな。噂なんて勝手でいい加減なものだよ、ねえハニー?」
わたしの髪をすくう社長に無言で微笑んでおく。
社内ではいつものように『ええダーリン』とは言えない。さすがに。
べったりくっついて立っているだけで十分だろうと思うし。
「ではわたしはここで失礼します。葵羽さん、今日はありがとうございました」
社長も伊勢さんもそれ以上は言わず、伊勢さんは軽く頭を下げてデザイン室に戻っていった。
うん、何だか伊勢さんに申し訳ないことをしてしまった。まさか蕎麦屋へのお誘いを社長に聞かれていたとは。
おまけに二人きりで行ったことも注意されてしまって。さすがに雇い主からの注意は気になるだろうし、明日にでもフォローしておこう。
伊勢さんの背中を見送っていると
「彼が気になるのかな」と頭の上に声が落ちてくる。
身長差があるせいでくっついて立っていると社長の顔はわたしの頭の上だ。
「気になりますよ。同じ会社の社員ですし、伊勢さんは将来を期待されているデザイナーのひとりですし」
「気になる異性ではないの?」
はあ?
「同僚ですけど。まさか本当にふたりで食事をしたのが気に入らないんですか」
それにしてもめんどくさい、この人。
自分は好き勝手に遊んでいるのに。
お蕎麦屋さんでふたりで食事をしたのは間違いない。
けれど店の前で偶然一緒になっただけだ。お互いひとりで入ろうとしていたから一緒に入ったってだけだし。
ちなみに後輩の莉子は蕎麦アレルギーでこの店には誘えない。
「そうかもね」
「・・・・・・」
社長のアルカイックスマイルにいちいち相手をするのが面倒で返事をするのをやめてやった。
事務室に戻るともう誰もいなかった。
残っていた営業部員のネーム横には帰宅のプレートがかかっている。
「さて、わたしの方は業務終了しました。社長はいかがですか。さすがに今日は一緒に会社を出ないとまずいでしょうし、タクシーで送ってくれます?」
「おいおい、ディナーに行くと言っただろう」
「ご冗談でしょ」
結婚以来どうしてもという会食以外で社長と食事をしたことはないし、二人きりで食事なんてことは一切ない。
せいぜいお茶を飲むくらいだったのに。
わたしの言い方が気に入らなかったのか社長は整った眉をちょっと寄せ琥珀色の目を細めた。
「予約をしてあるから帰る支度をしなさい。ああ落ちたメイクも直す時間も必要かい?」
命令口調だし、嫌味混じってるし。
こちらもちょっとカチンとする。
「わたしに予定があるかの確認はしてくれないんですね」
「ーーー今夜は夫を優先して欲しい。話があるから付き合ってくれ」
社長の譲らない態度にわたしは心の中でため息をつく。
「わかりました。メイクを直してデザイナー室に声を掛けてきます。5分で出られますから」
だってそう言うしかない。
この関係は夫婦ではなく主従のようなもの。
この人がいなかったらわたしは今頃・・・・・・。