琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?

社長の猛攻




連れて行かれたお店は休店日なのか私たちに用意されたテーブル以外にお客さんがいないだけでなくテーブルセットすらされていなかった。
貸し切りにしてはなんだか雰囲気が違うような。

「シュミット社長、昨日はありがとうございました。本日もよろしくお願いします」

店の男性が社長に向かって丁寧に頭を下げる。

「昨日はゆっくり時間がとれなくて悪かったね。ーー彼女がわたしの妻、葵羽だ。美味しい料理を食べさせてやりたいからよろしく」

「かしこまりました」

「葵羽、こちらはここのオーナーシェフの小幡さん。このお店はウチがコンサル事業で関わっているところだ」

紹介されてああなるほど、と納得した。
オープン前の店舗らしい。だったらこの雰囲気も納得だ。

「妻の葵羽です。今日はお世話になります。主人ったら何も教えてくれないので知らなくて。どんなお料理が出てくるのか楽しみです」

「はい、おまかせ下さい。ーーーシュミット社長のアドバイスに従って昨日お出ししたものとはちょっと変えてありますのでまた感想の方もお願いしたく」

「そうですか、それは楽しみだな。ーーーああ、小幡さん。うちの妻に昨日の夕方はここで試食会の仕事だったって教えてやってくれないか。こっちの仕事を優先してパーティーに遅れてしまったものだから妻に疑われてしまってね、困ってるんだ」

試食会の仕事?
それって例の彼女とのデートの話?

「そうなんですか?!それはお困りでしょう」

小幡さんが人のいい笑顔を浮かべる。

「奥さま、昨日は夕方からシュミット社長とハウスオブダリアの長谷川社長、それと生産農家の松川さん、辻さんにこちらに来ていただいて試食会をしておりました。シュミット社長に無理矢理参加してもらったのはわたしの我儘なんです。申し訳なかったのですが、いつも中立で的確な意見を言って下さるものでーーー。終わったのは夜7時を過ぎたくらいで終わると社長はお一人で急いで帰られましたよ」

本当に仕事だったってことか。しかも食事はディナーデートじゃなく試食会で他にも参加者がいたらしい。
ではあの彼女がウソをついたということになる。


「な、わかったかい。純粋に仕事だよ」

社長がさわりとわたしの頬を撫でる。

「ええ、わかったわ。疑ってごめんなさいね、あなた」

小畑さんの手前しおらしく謝ってみせる。別に悪いと思ってはいないからもちろん演技だ。今回は試食会だったのかもしれないけれど、だからといって彼女と個人的な付き合いをしていないということではない。

「ああよかった。きみに疑われていると思ったら生きた心地がしなかった」

即座にわたしの頬に額にとキスが落ちてくる。
反射でいつものように甘んじて受け入れてしまった。

私たちの態度に「誤解が解けたようでなによりです」と小幡さんがホッとしていた。誤解というのが彼女の嘘を示すのなら誤解が解けたというのだろうけど、社長と彼女の関係であれば現状維持のままだ。


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