琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?



小幡さんのお店を出てそのまま解散ーーーにはならず、夜景が綺麗なバーに連れて行かれた。

「ここ、覚えている?」
「もちろんです」

結婚してイギリスに旅立つ前に連れてきてもらったお店だ。忘れるわけがない。
叔父たちとは関係のない、しがらみ無しで初めて二人で出掛けたデートだったからだ。
もちろん社長にそんな意図はなかっただろうけど。

店内にピアノが置かれていて素敵な生演奏の時間もある落ち着いた大人のお店。
二年半ぶりだ。

あの時と同じ、社長はウイスキー、わたしはマティーニを頼んだ。

席と席の間が開いていて他人に会話が聞こえにくい配慮がされているのだろう。ここでなら本音をいってもいいのかもしれない。

「葵羽」
キャンドルの向こう側に座る社長の表情が硬い。
そうか、向こうも何か大事な話をするためにここに連れてきたのだとわかる。

もしかしたら、向こうもそろそろ潮時だと思っているのかも。
子どものお守りは終わりとか。
私が隠れ蓑である必要が無くなったとか。

社長が私と婚姻するメリットは既婚者であるという看板だった。
社長に結婚してもいいというお相手が出来たのならわたしの存在は邪魔になる。

ただ、そのお相手は昨日の彼女ではないらしいけど。


「長谷川社長が失礼を働いていたってどうしてわたしに言わなかった?おそらく昨日だけじゃないんだろう」

「・・・・・・」

「一度や二度ではなかったということか。なら尚更わたしに言うべきだったのではないか」

「・・・・・・」

「訴えることも出来るくらい腕も赤くなっていたそうじゃないか」

「どうして知ってるの。瑠璃に聞いたの?っていうか瑠璃が昨日の夜わざわざ明日の朝ご飯にってパンを持ってきたのはまさかそれを確認するためだったの」

社長ならそのくらいやるかも。
でも親友がわたしに黙って社長の指示に従っていたとしたらショックだ。

「確かに瑠璃に様子を見てくるように頼んだのはわたしだ。それともあのままマンションに乗り込んでわたしが直接腕を確認した方がよかったというのか」

それはもちろん御免被りたい。
そうされなくてよかった。

「訴えることも出来るが、きみがそうしたくないと言っていたと聞いた。本当に訴えなくていいのか?」

「そんなことしなくていいです。ちょっと掴まれただけだし」

「他にも嫌がらせされていたんじゃないのか」

「化粧室で出会ったときとか偶然カフェで出会ったときに嫌味を言われるくらいで」

「それでも迷惑しているのならせめてわたしに言うとかーーー」

「ねえ、社長」

ちょっとむかついてスイッチが入った。

「そんなの彼女だけではないし、いちいち訴えます?あなたの会社の女性社員のお掃除だって誰がやったと思っているの。それに長谷川社長はあなたの恋人だって世間一般じゃ有名な話でしょ。それに対してわたしはあなたから否定されたこともないから私だってそう思っていたのよ、っていうか本当に彼女じゃなかったわけ?」

「・・・・・・いろいろ誤解があるのがよくわかったよ」

額に手を当てふうっと息をつく社長。





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