琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
1人残された私は大きな社長の椅子の背もたれに寄りかかり脱力した。

おかしい。いつものことなのにいつものことじゃない。
頭のてっぺんにキスされた感触が残っている。

慣れたはずの些細な仕草にドキドキしてしまうのは昨日の夜からクリスがおかしいからだ。

外面とのギャップ萌え?そのせい?
社長室にふたりきりになったら彫刻スイッチはオフになっていて口調も車内や昨夜のようなものに戻っていた。

・・・・・・今のが素のクリスだよね。

書類上の妻だけど、本当のクリスの姿を見せてもらえる間柄に昇格した?

昨日一日が濃かっただけに頭がうまく働かない。
今日はクリスの態度が変わった理由を聞くチャンスはあるだろうか。

ドキドキするのはクリスの態度がいつもと違うから。
見慣れないクリスに戸惑ってるだけ。
決して惚れてはいない。まだ、たぶん。

『惚れた?』ってきかれて動揺したのは『惚れた』からなんだろうか。

・・・・・・いや、そもそもあの人に惚れていいの?

クリスは私にとって大恩人だ。
だから今まで考えないようにしてきた、半ば封印するようにしてきたからクリスに対して恋愛感情は無いーーーーと思う。

あの琥珀色に魅了されているだけ。

助けてもらった恩と恩に報いるための義務。
そんな関係なのに私がそれ以外を感じてもいいのかという話になる。

向こうに恋愛感情がなくて、私が惚れてしまったらこの関係はどうなるんだろう。
誰から見ても私の存在ってすごく厄介だと思う。

やっぱり、どう考えても泣くのも泣かされるのも嫌だしーーー憧れのまま宝箱にしまって神棚においておくのがいい。
うん、そうだ、きっとそうだ。

ゆらゆらした気分で落ち着かない。
でもそれはきっとこのゆったりふかふかの社長の椅子のせいだ。そうだ、たぶんそのせいだ。きっとそうだ。

同じことをぐるぐると考えてはため息が出る。


ーーーードアの向こう側から聞こえる足音にハッとした。

いやいやいや、ここに何しに来たのか忘れてるじゃない。

仕事を頼まれたのだからまずは集中してやらねばいかん。
ぐだぐだ考えてる場合じゃなかった。

社長だっていつ戻ってくるかわからない。それまでに終わってなかったら無能だって思われちゃう。
それだけは勘弁。

反省した私はマウスを手に意識をデスクに開かれたパソコン画面に向けた。

頼まれたのはハウスオブダリアの関係資料とメールをここのスタッフの日向さんに送ること。

昨日も小幡さんに言っていたけれど、クリスは今後長谷川社長だけでなくハウスオブダリアとの関わり全てをスタッフに丸投げするつもりなのかもしれない。

日向さんはクリスの代理が務められるこの会社のリーダー的な存在の人のひとりだ。
会社としてはハウスオブダリアと手を切ることはしないけれど、長谷川社長と自分の個人的な接点をなくすつもりなのかも。
昨日は相当怒っていたし。
ただ訴えるとまで言ったのは私も驚いたけど。

長谷川社長が見た目にそぐわず相当な握力の持ち主だったことは確かだった。何のスポーツをしていたのか知りたいと思うほどに。
つかまれたところは痛かったけど、訴える必要はない。ただもう関わり合いになりたくはないなと思う。

でも、ちょっと腹は立っているから次に会ったら彼女の目の前で(クリス)と思い切りイチャイチャしてやろう。
演技なら周囲への牽制としてクリスも協力してくれることだろうし。




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