琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
店員さんがオーダーを取りに来てくれてこの話は中断することになったのだけど、中断されただけで無しにはならなかった。

「今日の西京焼きの魚は旨かったな。あれはどこで買ったものなんだ?」

「うちのマンションから西に出た坂を上った途中にあるスーパーです。あのあたりではそこが一番鮮魚部門が充実してるんですよ」

クリスが頷きながら地図アプリを開き「どこだ?」と聞いてくるので身を乗り出してクリスのスマホを覗き込む。

「えーっと」クリスの持つスマホの画面をピンチインして指し示した。

「ここです。通りの向こうにあるこっちよりお店は小さいんですけど、お魚ならここのがいいんですよ」

「こっちにも大きなースーパーがあるようだが」

クリスが示したところは高級食材スーパーだった。

「ここは確かにいい物が置いてあるんですけど、お値段がかわいくないし、普段の買い物で行くところではないですね。こっちに行けば一般人向け価格のスーパーがあります」

「こっちのオーガニックストアは」

「ああ、ヴィーガンの方も行かれるお店ですね。私はそう言った主義に疎くて。産地や添加物は気にしますけど、ファストフードも食べますしあえてそこを利用することはないです」

何よりもお値段もすごいですからと言うのは避けた。
お金のことばかり言えばどんな守銭奴だと思われそうだし。なにしろ、私にはクリスが守ってくれたそこそこ暮らしていくには困らない程度の遺産があるし、お給料ももらっている。それに家賃も光熱費も払っていないし、ほとんど手をつけてはいないけれど、生活費までクリスから振り込まれている。

クリスは頷きながら私の話を聞き「魚はここか。肉のお勧めはあるか?野菜はどこがいい?」なんて主婦同士のような会話をしてくる。

私の知らなかったクリスの顔に驚きつつ情報共有していることがなんだかちょっと嬉しい。
だからといって同居を納得したわけじゃないけど。
あれが毎日部屋にいると思ったら緊張して落ち着かないだろうし。

私の持つスーパー情報を披露していると注文していた蕎麦が届いて食材の話は終了した。

クリスは大盛りの天ざるで私は冷やしすだちそば。

「ああ、旨いな。蕎麦の風味も天ぷらの揚がり具合も」

どうやらここの味はクリスのお眼鏡にかなったようで、私も安心する。
私の冷やしすだちそばも非常に美味しい。

「葵羽がまた来たくなる気持ちがわかった」
「あれ、私そんなこと言いましたっけ?」

記憶にないことを言われて首を傾げる。
今日もランチをここで食べると決めたのはクリスだし、私は意見など言っていない。

「昨日伊勢に誘われて頷きそうになっていただろ」

あー、そういうことか。
確かに誘われた時に行きたいと思ったけど。もちろん2人なら行くつもりはなかった。
前回は偶然だったから仕方ないのに。


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