琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
「昨日は行くつもりはありませんでしたよ?でも今日連れてきてもらえてよかったです。ランチメニューも確認できましたし」

ここはかなりの人気店でランチタイムは行列が出来る。
今日はこうして時間が早かったから待つことなく座れたけれど普段のお昼休みには行列必至で利用することは出来ない。
並んでいたら昼休み時間が終わってしまう。

夜は夜で私と一緒にお蕎麦を食べに行ってくれる相手がいないのだ。

莉子は蕎麦アレルギーだし、瑠璃や滉輔さんは夕飯が蕎麦では物足りなくて嫌だと言うし。
よく行く社内のメンバーも居酒屋や焼き肉とかボリューム感かアルコール重視の人だらけ。

行き慣れている店ならひとりご飯も出来るけど、初めてのお店にひとりで行く勇気がなかったから今までは挑戦していなかった。
そしてたまたま前回、意を決してひとりで入ろうとしたら伊勢さんに出会ったってわけで。

「じゃあ私をまた連れてきてくれます?夕食だとクリスにはボリュームが足りないかもしれないですけど」

「妻の頼みを聞けないような器の小さな夫ではないよ。また来よう」

うわ、やば。爽やかな笑顔のいい返事が戻ってきてちょっと顔が熱くなってしまう。
彫像クリスの攻撃よりもこれは厳しい。
打ち抜かれて私のHPが大幅に減った自覚がある。

今後プライベートのときはこんな感じでいくつもりなんだろうか。
心臓もつかなーーーー


「お食事中、失礼します」

横から掛けられた声に視線を移すと、昨日会ったばかりの”百人一首のお兄ちゃん”の中林知己さんが立っていた。
昨日と同様きちんとしたスーツ姿で今は外回りの途中なんだろうか。

一瞬にしてクリスの顔は彫像に変わり、私の方は思わずキリギリスの姿を探してしまう。
まさかアイツも一緒にいないだろうな、と。

「隆一も野木の伯父も一緒ではないよ」

挙動不審になった私を見て中林さんが苦笑している。

「ホントに昔も今も隆一のことが嫌いだね、あーちゃんは」

あーちゃん
懐かしい響きに私の顔はほころびかけたけれど、この人はがっつり野木サイドの人間だ。警戒を怠るわけにはいかない。

< 63 / 96 >

この作品をシェア

pagetop