琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
「何かご用ですか」
硬い外向きの声でクリスが中林さんを見つめる。
視線が冷たいのは気のせいじゃないと思う。
「私は彼女の親戚ですので挨拶をと思っただけですよ」
中林さんの出した『親戚』の言葉にクリスは眉をひそめた。
勿論わたしも。
今の私にとって『親戚』は少しもいい繋がりではない。特に野木の家関係は。
「『親戚』とは実に都合のいい言葉だね。葵羽の叔母の息子である隆一はともかく、叔母の配偶者の兄弟の子どもなんて血のつながりもない他人じゃないか」
クリスの声の温度も下がった。
冷え冷えとした会話に私たちのまわりだけ温度が下がっているような気がする。
「おっしゃる通り私たちに血縁はないですが、幼い頃からの交流はありましたし、野木の伯父から見れば葵羽さんは姪で私は甥ですので関係者ではないというわけではないでしょう」
それにーーーと中林さんがわざとらしく一拍おいた。
「本来ならば葵羽さんに連絡を取るのにあなたの許可はいらないはずだ」
クリスの眼光が鋭くなり、ぴりりと空気が揺れて私は寒気に襲われる。
「ほう面白い」
目が笑っていない笑顔でクリスが私を振り返る。
「ハニー、彼は今後直接キミに連絡を取るそうだけど、キミはプライベートの連絡先を彼に教えるかい?」
もちろん、答えは決まっている。
「いいえ。用事があれば会社用のEメールへ。急用であれば大政の実家に電話をして留守番の者に要件をお伝えください。大政の家の電話番号は昔と変わっていません。必要があれば私からかけ直します」
百人一首のお兄ちゃんであれ私が野木の家の関係者にこの対応を変えることはない。
それに昨日大政に就職したと言っていたし、警戒すべき相手なのは間違いない。
中林さんはシュミット社長に相対する会社の社員という仮面をとっくに捨て去っているし、野木家に近い者という立場で私に近付くのであれば私のとるべき態度など決まっている。
「必要であればこちらへ」
私は会社の個人メールアドレスが書かれただけのシンプルな名刺を中林さんに差し出した。
「ふーん、そうきたか」
私から名刺を受け取ると、指先に挟んで興味なさげに眺めている。
「そういうことで、もういいかな。私たち夫婦はこれから予定があるんだ」
クリスがバッサリと切ると「はい、ありがとうございました」と中林さんは意外にもあっさりと引いた。
「私はどっかの馬鹿ではないのでシュミット社長と敵対する気はありません」
クリスに向かって姿勢を正し丁寧に頭を下げたあと、私に向かって
「いい報告待ってて。ね、あーちゃん」
と爽やかな笑顔を見せて奥のお座敷席に向かって去って行った。
・・・・・・なにあれ。
何を考えているのかわからない。
野木サイドの人間なのだから私の味方ではないのはわかっているけど。
二転三転させる態度にどれが本心なのかわからない。
「出るぞ」
クリスに言われて私も席を立った。
お蕎麦屋さんを出て会社に向かって歩き出したけれど、クリスは声を掛けるのを躊躇ってしまうほど難しそうな顔をしている。
手は繋いでいるのだけど、心が繋がっていないせいか何を考えているのかわからない。
ここ一年は小さな嫌がらせはあったものの叔父たちに大きな動きがなく平和に過ごしていたこともあって急に不安になる。
ただ昔の知り合いが現われただけなのに、それが野木の家の親族だというだけで足元が揺らぐ気がしてしまう。
「どうした」
思わず繋いだ手に力がこもってしまい、立ち止まったクリスに顔を覗き込まれてしまった。
「あ、ううん」なんでもないと言おうとした唇は言葉を発することはできなかった。
そっと一瞬だけ唇がふれあい離れていった。
「心配するな。必ず守る」
琥珀色の瞳の輝きがとても力強くてーーー私は何だか泣きそうになった。
硬い外向きの声でクリスが中林さんを見つめる。
視線が冷たいのは気のせいじゃないと思う。
「私は彼女の親戚ですので挨拶をと思っただけですよ」
中林さんの出した『親戚』の言葉にクリスは眉をひそめた。
勿論わたしも。
今の私にとって『親戚』は少しもいい繋がりではない。特に野木の家関係は。
「『親戚』とは実に都合のいい言葉だね。葵羽の叔母の息子である隆一はともかく、叔母の配偶者の兄弟の子どもなんて血のつながりもない他人じゃないか」
クリスの声の温度も下がった。
冷え冷えとした会話に私たちのまわりだけ温度が下がっているような気がする。
「おっしゃる通り私たちに血縁はないですが、幼い頃からの交流はありましたし、野木の伯父から見れば葵羽さんは姪で私は甥ですので関係者ではないというわけではないでしょう」
それにーーーと中林さんがわざとらしく一拍おいた。
「本来ならば葵羽さんに連絡を取るのにあなたの許可はいらないはずだ」
クリスの眼光が鋭くなり、ぴりりと空気が揺れて私は寒気に襲われる。
「ほう面白い」
目が笑っていない笑顔でクリスが私を振り返る。
「ハニー、彼は今後直接キミに連絡を取るそうだけど、キミはプライベートの連絡先を彼に教えるかい?」
もちろん、答えは決まっている。
「いいえ。用事があれば会社用のEメールへ。急用であれば大政の実家に電話をして留守番の者に要件をお伝えください。大政の家の電話番号は昔と変わっていません。必要があれば私からかけ直します」
百人一首のお兄ちゃんであれ私が野木の家の関係者にこの対応を変えることはない。
それに昨日大政に就職したと言っていたし、警戒すべき相手なのは間違いない。
中林さんはシュミット社長に相対する会社の社員という仮面をとっくに捨て去っているし、野木家に近い者という立場で私に近付くのであれば私のとるべき態度など決まっている。
「必要であればこちらへ」
私は会社の個人メールアドレスが書かれただけのシンプルな名刺を中林さんに差し出した。
「ふーん、そうきたか」
私から名刺を受け取ると、指先に挟んで興味なさげに眺めている。
「そういうことで、もういいかな。私たち夫婦はこれから予定があるんだ」
クリスがバッサリと切ると「はい、ありがとうございました」と中林さんは意外にもあっさりと引いた。
「私はどっかの馬鹿ではないのでシュミット社長と敵対する気はありません」
クリスに向かって姿勢を正し丁寧に頭を下げたあと、私に向かって
「いい報告待ってて。ね、あーちゃん」
と爽やかな笑顔を見せて奥のお座敷席に向かって去って行った。
・・・・・・なにあれ。
何を考えているのかわからない。
野木サイドの人間なのだから私の味方ではないのはわかっているけど。
二転三転させる態度にどれが本心なのかわからない。
「出るぞ」
クリスに言われて私も席を立った。
お蕎麦屋さんを出て会社に向かって歩き出したけれど、クリスは声を掛けるのを躊躇ってしまうほど難しそうな顔をしている。
手は繋いでいるのだけど、心が繋がっていないせいか何を考えているのかわからない。
ここ一年は小さな嫌がらせはあったものの叔父たちに大きな動きがなく平和に過ごしていたこともあって急に不安になる。
ただ昔の知り合いが現われただけなのに、それが野木の家の親族だというだけで足元が揺らぐ気がしてしまう。
「どうした」
思わず繋いだ手に力がこもってしまい、立ち止まったクリスに顔を覗き込まれてしまった。
「あ、ううん」なんでもないと言おうとした唇は言葉を発することはできなかった。
そっと一瞬だけ唇がふれあい離れていった。
「心配するな。必ず守る」
琥珀色の瞳の輝きがとても力強くてーーー私は何だか泣きそうになった。