琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
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今日はここの事務方の支柱と言うべき谷垣さんがお子さんの運動会のためお休みで、私も午前は出社しなかった。なのでそこそこ仕事がたまってしまっている。

雑用係といっても私の裁量権は結構大きい。

クリスはランチから戻るなり滉輔さんにあてがわれた部屋に籠もってしまって出てこなくなってしまった。
昨日は同じ部屋の大テーブルを占拠して仕事をしていたのに。

滉輔さんも今はもうデスクに戻っているけれど、さっきまでクリスと一緒に部屋に籠もっていた。
クリスはお店を出てから難しい顔をしていたし、もしかしてさっきの中林さんのことが関係してるのかなと思ってしまう。

それでも、私は不安に思うことをやめた。

クリスチアーノは絶対に私のことを守ってくれるからだ。
それに関する彼への信頼は揺らぐことはない。

2年と7ヶ月と4日。私はしっかり守ってもらっているし、私たちは実体が伴わなくても夫婦だ。

私は私で与えられた仕事をするしかないし、それがクリスの役に立つなら全力でやる。




「葵羽さん、お先に」

営業事務さんに声を掛けられて時計を見たら18時を回っていた。
集中して働いていると時間が経つのはあっという間だ。

ため息をつきながらスケジュールの確認をする。
今日は既に一人面談が終わっていてこのあと二人の予定。けれど、おそらく二人とも雑談程度で終わるはずだ。

クリスは私が終わるまでには戻ると言って16時頃外出していった。

行き先ボードにA会議室と書き込み「面談はいりまーす」と誰に言うともなく声を出すと「頼んだよー」と滉輔さんが奥から返事をしてくれた。

「あれ?滉輔さん昨日から定時退社じゃなかったんですか」

「あー、それなぁ。ちょっとめんどくさい案件が。しかも瑠璃の方も急に大型の契約が入ってブーケをたくさん頼まれたんだと。だから今日も明日も早く帰ってこなくていいって」

滉輔さんはがっくりと肩を落とした。
おやおや。

お花大好きの瑠璃のことだから嬉々としてブーケのデザインをしているのだろう。それこそ寝食を忘れるほどに。

「ああーーーお気の毒様です」

「お互い様だからなぁ。仕事辞めろとは言えないし・・・。まあそんな感じだから瑠璃の帰りの早い日に俺も帰らせてもらうから葵羽ちゃんは気にしないで」

「私で手伝えることがあれば言って下さいね。あんまりお役に立ててないのに図々しい言い方ですけど」

「そんなことないって。梅野のことも任せっきりだし、うちの総務やら経理やら全部もう葵羽ちゃんいないと回っていかないから。頼り切りでごめんな」

そう言ってもらえるとここが私の確かな居場所みたいで嬉しい。
両親を亡くしたあの頃、親戚関係も失い私は自分の居場所をなくした迷子だった。
それが瑠璃のおかげで滉輔さんと知り合い、夫となったクリスに助けてもらって今の私がある。

住むところも働くところもあり、お給料ももらって、その上守ってくれる立派な夫もいる。
こんな有り難いことがあるだろうか。


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