琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
「・・・・・・残念。やっぱりこんな時間だから鮮魚はないですね」
「それは期待してなかったからいいさ。干物は旨そうだし、野菜も買えるし」
仕事帰りに私のお魚おすすめスーパーに寄ってみたのだけれど、もう時刻が遅いこともあって鮮魚の棚はスカスカだった。
クリスは買い物かごに脂がのっていそうな鯵の干物といかのみりん漬けを入れていく。
既に野菜やお豆腐、油揚げも入っているから明日の朝ご飯のメニューはお豆腐の味噌汁に鯵の開きだ・・・・・・ってちょっと楽しみにしている自分がコワイ。
「夕飯はどうします?」
かごの中身は朝食を連想させるようなものばかりで今からの夕食に使うようなものは入ってはいない。
うちの冷蔵庫の中身も自分の分だけならまだしも二人分の夕食を作るには心許ない。
「夕食は外に行く。食材を冷蔵庫に入れたら出掛けよう。すぐ近くにいい店があるから」
そうなんだ。
会社では自宅でゆっくりとか言っていたような気がするけど、あれは人の目を気にした見せかけだったってことかな。
スーパーを出て歩いて10分。スーパーの袋はクリスが持ち、空いた片手で私と手を繋ぎ肩を並べて夜道を歩く。
灯の消えたショウウインドウに映る自分たちの姿を見てドキンと胸が跳ねる。
こうしていると普通の夫婦みたいに見えてしまうから不思議だ。
いつの間にか手を繋いでいるし。
昨日もそうだったけど、仕事中以外歩くときはいつも手を繋がれているような気がする。アピールだってわかっていても、まるで仲良し夫婦みたい。
そんなことを考えながらすぐ隣を歩く夫の横顔を見上げる。
ここ一年ほどは月に数回会うだけの関係だったのに。急に距離を詰めてきた夫に戸惑いを覚える。
綺麗な顔のライン。グッと飛び出している喉仏もクリスのは何だかとってもセクシーに見えるから不思議だ。今まで男性の喉を見ても何とも思ったことはないのに。
少しだけ薄めの唇。
そうだ、あの唇。
一昨日あの唇にキスしたんだ・・・・・・しかもかなり濃厚なやつ。
自分のやらかしを思い出し、今さらながら恥ずかしくなって目をそらした。
「おっと、危ない」
横の路地から飛び出してきた自転車を避けるためクリスが私の手を引っ張り自分の背に隠した。
自転車に乗った青年は「すみません」とペコペコしながら走り去っていったけれど、私の胸のドキドキはおさまらない。
「大丈夫か」
「ハイ・・・」コクコクと頷いてなんともないと伝える。
クリスが庇ってくれたから身体は大丈夫だけど、でも全然大丈夫じゃない。
「どうした?」
うわ、覗き込むのもやめて欲しい。
琥珀色の瞳が近い。その瞳はヤバイ。
「ーーーああ、そうか」
クリスが呟くように言って微笑んだ。・・・・・・悪い予感がする。
「『惚れた』か?」
「違います」
ぷいと横を向いて歩くスピードを速めた。とはいえ手を繋いでいるのだから二人の距離は離れないんだけど。
ニヤ二ヤするなんて失礼だ。