琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
「では、女性の支度には時間がかかるものですから我々はそろそろ失礼させていただきます。ーーーそうだ、今後の面会はパーティーで顔を合わせる程度というわけにいきませんか」
「そんなことは許さない」
叔父は更に渋い顔をし社長が腹黒そうな笑みを浮かべた。
「では次回の面談では私たちの仲を疑うような発言や妊娠などの話題も無しでお願いしますね」
さあお暇しよう、と促され伸ばされた社長の手を取って立ち上がり彼の肘に手をかける。
こういうエスコートが出来るのって日本人じゃないからだろうなと思いつつ慣れた風を装って商談ルームを出た。
ドアの外にいた大政の年配の男性と視線が合う。
この人は先代社長である父の時から社長秘書を務めてくれている大村さんだ。
もうすぐ50才になるだろうというひとでいつも私のことを親戚の娘のように可愛がってくれていた。
古参の社員がリストラに遭う中、この人だけはなぜか左遷も退職もさせられず会社に残っていた。
「お嬢さま。お元気そうで安心しました」
「いやね、毎月会っているでしょ。私は大丈夫だから心配しないで。それにいつまでもお嬢さまって呼ばれるのもくすぐったいし」
エントランスまで送ってくれる大村さんと小声で会話する。
「シュミット様。どうか私たちのお嬢さまをよろしくお願いします」
大村さんはいつもこうして心配そうな顔をして私たちを見送るのだ。
最初の1年はそんな顔を見ると私も亡き父を思い出して目の奥が熱くなってしまっていた。
最近は大丈夫よと笑顔で返せるようになったのだから人は成長するものだ。
並んで出て行くとエントランスにいつものうちの社長専用車が停まっていた。
帰りはタクシーか車を呼ぶとは言っていたけれど、いつの間に手配したのだろう。
ずっと隣にいたはずなのに気が付かなかった。
仕事の出来る男ってすごいなと素直に感心してしまう反面ちょっとできすぎるのもコワイ。
「パーティーのこと勝手に決めてすまない。今夜は大丈夫か」
今日は現地解散にはならず二人で車に乗り込むと彼が私に謝ってきた。
それは今夜何か予定があるのかという意味であれば無いから問題ない。大丈夫でないのは私の心構えと身支度の方だ。
「どこの誰の何のパーティーですか」
「三石とマッキンリーの合併パーティーだ。もともと私も遅れて少し顔を出すくらいで長居をするつもりはなかったが、こんな流れじゃ行かざるをえない。ただその前に私は1つ予定が入っているから葵羽をマンションに迎えに行けないんだ。滉輔に頼んでおくから奴と一緒に来て欲しい。悪いが現地集合で」
悪いも何も現地集合なんて私たちの間にはよくあることなんだけど。
何を今さらって感じだし、何より今日のはとばっちりを受けたのは社長の方だと思う。
「いいえ、こちらこそすみません。私の事情に巻き込んで」
「いや、気にするな。それよりドレスやヘアメイクは大丈夫か」
「まだ着ていないドレスがあります。髪もメイクも自分でするのでたいして化けられませんがいいですか」
「葵羽は元がいいから気にするな。ああ、でも今夜はいつもよりセクシーな路線にした方がいいな。不仲説を払拭したいから硬い感じはやめてくれ。ちょっと露骨にボディタッチするからビクビクするのもなしだぞ」
露骨にボディタッチといわれて思わず目をそらしてしまう。
2年経っても慣れないんだよね。
「不仲説払拭」
真面目な顔でいわれて頷くしかなかった。
「ハイ、ガンバリマス・・・」