琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
「・・・おはよう、もう観察しなくていいのかな」

ぎくっ。
慌てて寝たふりをしたけれど間に合わなかったらしい。

「・・・・・・おはようございます、クリス。あなたはどうしてここに?」

観察していた事もバレているらしい。
まさか寝たふりしてたってことじゃないよね?
ばつが悪いので話をすり替えてみる。

「どうしてって聞かれることの方がどうしてなんだけどね」

クリスが片肘をついてこちらに寝返りをうつ。
さっきよりも近くなった距離に落ち着かなくて視線を逸らした。

どうしてって聞かれることの方がどうして?ってどうして??
質問を質問で返されてしまい、疑問でしかない。

「葵羽は俺に床かソファで寝ろと?」

もちろんそんなつもりはない。

「ううん、どうして自分のベッドじゃなくて私のベッドで寝ているのかって話をしているんだけど」

ほぉ。
クリスが面白い話を聞いたとばかりに目を細めた。

「ここは自宅。つまり、俺と葵羽の家」

説明するようにゆっくりと言い、笑顔を見せつけるようにしてくる。

何なのかしら。
疑問はあるけれど、こくりと頷いておく。

「で、葵羽は俺の妻」

それも知ってる。
いつもその肩書きに助けられているのだから。それのせいで野木の叔父たちは私に手出しが出来ないし、会社で今の私の居場所がある。
またこくりと頷く。

「だからここで一緒に寝ることはおかしなことじゃないだろう。《《夫婦の》》ベッドなんだから」

へ?
夫婦のベッド?
これは私の部屋にあるわたしのベッドじゃなかったってこと?

「・・・・・・クリスの部屋のベッドは?」

「そんなものはないけど?」

え、無いの???

「じゃあ一昨日はどこで寝たの?」

「もちろんここでだけど」

えええー。そんなことってある?

「葵羽はぐっすり眠ってたから気がつかなかったのかもな。昨日の夜も一昨日もここで寝たよ、俺もぐっすり」

「知らなかった・・・・・・」

知らなかった。クリスの部屋にベッドがないことも昨日も同じベッドで寝たことも。だってクリスの部屋の中って見たことないし。

「でも、初夜と同じで手は出してないから安心して。そういうのって同意がないとダメだろ。ーーーまあ勝手におやすみのキスはしたけど」

クリスの温かい手が伸びてきて頬を撫でられ親指が優しくくちびるをかすめていく。

ひゃっと声が出て身体を縮める。
あーさーかーらーその色気を出すのはやめて。

「もう、ムリっ」
瞬間湯沸かし器のように沸騰した顔を見られるのが恥ずかしくて布団の中に逃げ込んだ。

本当にムリだし。
クリスがどう思っているか知らないけど、私のそういう経験は薄っぺらくて浅いものしかない。
こんなお色気攻撃に耐えられるはずがないのだ。

布団の中で丸まっているとくくくっと忍び笑いが聞こえてきた。

「朝食の支度をするから先に起きる。葵羽は気が済むまでそこに隠れてていいけど、ご飯が冷める前に起きてこいよ、マイハニー」

ガサゴソとベッドから起き上がる気配がして足音と共にドアが開閉する音もした。

・・・・・遊ばれてる。


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