琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?

「・・・・・・手伝う。何をしたらいいかわからないから言って」

それから10分。
諦めて布団から這い出し、顔を洗ってキッチンに向かった。

「うん、ありがとう。じゃあネギでも切ってもらおうか」

ベッドでのことがなかったような態度でちょっとホッとする。
あのままお色気攻撃されたら耐えられる自信が無いし、今日一日中挙動不審になりそうだ。

「ネギはお味噌汁に入れるやつ?小口切りでいい?」
「ああ」

私がネギを刻んでいる間にクリスは手早く魚を焼き冷や奴のショウガをすりおろし人参とゆかりの即席漬けを盛り付けていく。

どれだけ万能なんだろう。

だけど、私は1つ気がついた。
クリスの後頭部の髪が寝癖でくるんっとなっている。
うそ、すごーくカワイイんですけど。

見たことのないクリスの隙を見つけ嬉しくなって口元が緩んでしまう。

「何がそんなに嬉しいんだ?」

隠れてニマニマしていたつもりだったのに、クリスの後頭部には目が付いているのかすぐにバレた。

「えーっとーーーークリスも人の子だったなーとか思ってみたり」

とぼけた返事をすると、クリスに呆れた顔をされる。

「人の子だろうが、普通に」

「まあそうなんだけど、そうでないっていうか。人間離れしてますよね、容姿だけじゃなくて何でも出来ちゃうし」

「人間だ、普通に。葵羽は俺の両親とも画面越しだったけど会ったし話をしただろう」

「あれが”会った”ってことになるならそうかもしれないけど・・・・・・」

確かに結婚するとき、クリスのご両親に挨拶をした。
インターネット経由で、画面越しに。

「仕方ないだろう、あっちはエーゲ海の孤島に引っ込んで好き勝手に暮らしてるんだから。日本に呼び寄せるのもこっちが行くのも大変だし。そのうち俺らに会いに日本に来るって言ってるんだからそれでいいし、葵羽とのことだって喜んで賛成してただろ」

まあそれはそうなんだろうけど。

「あれご両親っぽい俳優さんとか雇ったわけでは?」

「そんなわけあるか。それに何のためにそんな面倒なことをしなきゃいけないんだ」

何のためってーーー
「人の子だと偽装するためーー?とか」

はあ?とクリスが心底呆れたという表情になってカチリとお味噌汁を温めていたガスのスイッチを止めた。
あれ?
「まだ、お味噌入れてないけど?」

「味噌はあとだ、あと。ーーそれより前にしなきゃならない用事が出来た」

え?と思っているといきなりクリスに両肩を掴まれてくるりと正面を向かされる。
目の前すぐにクリスの顔が。

顔を寄せられ琥珀色に瞳が近付いてくる。
顔は洗ったし歯も磨いたけど、ちょっと距離が近過ぎやしませんか。
思わず後退るとクリスもまた距離を詰めてくる。

「ク、クリス、ちょっとどうしたのかなー」

狼狽えて思わず声が裏返ってしまったけど、この状況では仕方ないことだろう。

「うちの嫁がね、夫の俺のこと人の子じゃないとでも思ってたみたいだから、ちょっと教育が必要かなってね」

「きょ、教育・・・・・・」

「あ、しつけ?それともお仕置きかな」

クリスの目がコワイ。
笑っているような笑っていないような?

「ももももももちろん人間だって理解してるし。じゃなければ戸籍とかパスポートとか発行されてなかったはずだしーーー」

「でも、両親は雇った俳優だと?」

「い、いやねえーちょっとした冗談よ、冗談っ」

「そうかな。いつも俺のこと彫刻みたいだって思ってただろ。もしかしたら宇宙人なんて思ってるかのかもしれないよな。一度きちんと教育し直した方がいいと思っていたし、これはいい機会だと思うんだ」

にこーっとしている笑顔がコワイ。
そう言ったら何をされるかわからないから本人には絶対に言えないけど、なんか企んでいる顔をしてる。


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