琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
「20年近く会ってなかったけど、あの頃と雰囲気は変わらないものだね、大政のお姫様は」

嫌なことを思い出させてくれる。

わたしには昔、キリギリスに「ネズミ」と呼ばれていた時期があったのだ。

『黒目がでかくて身体が小さくてみすぼらしく見えるから』と言われてすごくショックだった。

「・・・・・・相変わらずネズミみたいってことですか」

「何を言ってんの。あーちゃんは小さい頃から目がくりくりしててかわいくてみんなのお姫様だったじゃない。隆一はあーちゃんのことが好きすぎてあーちゃんに似てるって言ってハムスターを飼い始めたんだから。そのハムスターに『ネズミ』って名前をつけたセンスはどうかと思うけど」

ハムスターの名前がネズミ・・・・・・。
しかもハムスターに似てるっていうのも褒められていないと思う。
ハムスターという生き物はかわいいけれど、自分と似ている要素が見つけられない。
そもそもキリギリスの感性は昔からおかしかった。

「キリ・・・隆一さんの名付けセンスはともかくとして、あれが私を好きだったとかいう冗談は気分が悪いのでやめてください。それに時間がないので本題を」

「あー、うん。なんか自業自得だけどさすがにちょっと隆一が可哀想に思えるな」
中林さんが小声で言うけれど、それは完全無視させてもらう。

「そんな話ならもう終わりにしますけど」

「おっと、ごめんちょっと待って。
ーーーパーティーの時は隆一が側にいたから話せなかったけど、実はあーちゃんの本心を確認しておきたくて。本当はこんなバタバタとした時間に聞くものじゃないのはわかってるけど、正面から連絡しても二人きりで話をすることは出来ないと思っていたからね。シュミット社長、あーちゃんに対してガード堅いし」

確かに連絡をもらっても野木サイドの人間と二人きりで会う選択はしなかったと思う。お仏壇のお参りの話も決まればクリスは同席してくれるだろう。

「本心って何のですか」

「大政の会社の経営に関してだよ」

「会社経営ーーー」

今さらな話題に眉をひそめた。

「そう。オーマサは元はキミの父方の会社でしょ。おじいさんもお父さんもそこの社長だった。お父さんがあんなことにならなかったら一人娘のあーちゃんは大学を卒業して大政に就職して後継者になるつもりだった?それとも自分の配偶者に社長を継いでもらうつもりだった?」

全くもって今さらの話題だ。

「そんなことはご存知かと思ってましたけど。私は後継者になるつもりはありませんでしたよ」

「へぇ、そうなんだ。じゃああのままお父さんが何事もなく社長として全うして引退していたら、あの会社の後継者はどうするつもりだった?」

「血縁に拘らず優秀な人材に社長の座を譲ることになると言っていました。今どき血縁に拘っていたら生き残れないと」

ただ父はこうも言っていた。
『もしかしてそれが娘の夫であれば嬉しいけど、だからといってそれを強制するつもりはないんだよ』と

それを中林さんに言うつもりは毛頭ない。


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