琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
「あーちゃんは今の野木家のことを身内だと思ってる?」

「とんでもない」
ふんっと鼻で笑ってしまった。

「私のことを可愛がってくれた野木に嫁いだ父の妹である叔母はとうに故人です。叔母が存命だった頃野木の叔父にも多少可愛がってもらった記憶はありますけど、その後それを消し去るほどのことをされました。祖父が祖母のために建てた長野の別荘も今はなぜか野木の後妻さんの名義になっているそうじゃないですか。父の死後、私はずいぶん酷い目に遭ってますし、出来れば野木の関係者の顔は見たくありません」

中林さんは少し表情を曇らせながら「そうだよね」と小さく頷いた。

「もう一つ。あーちゃんが頑なに大政の株式を手放さない理由は何?現金化して縁を切るって手もあったと思うんだ。そうすればあんな面会だってなくなるんだし」

「・・・・・・」

「大政は今や大政家のものじゃなくて野木の会社だ。あーちゃんは野木を憎んでいると言っても過言じゃないだろ。だったら相場よりかなり高く売りつけて手放してもいいんじゃない。シュミット社長の手腕ならそれも可能でしょ。そうしない理由は?」

「・・・・・・」

「なんとなくはわかっているけど、俺はあーちゃんの口からそれを聞きたいんだ」

「・・・・・・」

「シュミット社長は力がある人だよね。彼が本気を出せば大政本家の娘を旗頭にして大政を野木から取り返すーーーなんてことも不可能ではないでしょ。今後それをするつもりはないの?」

「・・・・・・」

ここで自分の気持ちを言ってもいいのか、躊躇った。

確かに元から経営に参加する気はなかった。

昔から祖父と父にあとを継ぎたいのであれば努力するように、他にやりたいことがあれば好きにしていいと言われて育った私は、会社の後を継ぐことを考えていなかった。

そもそも適性はないと思うしそのための努力もしてこなかった。

両親が亡くなったあとの混乱でいろいろなものを失ってしまったけれど、クリスのおかげもあって大政の株式だけは手元に残すことが出来た。

けれど、だからといって会社の経営権を取り戻そうとかは思わない。
クリスにも同じ事を聞かれたけれど、そんなことは望んでいないと言うと彼は理解してくれた。

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