琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
「そこを聞いておきたいんだよ、あーちゃん。俺にとってはそれが最重要。あーちゃんは俺のことが信じられないだろうけど」

中林さんの真剣な表情にちょっとだけ考えて頷いた。

「ーーー大政の創業家の子どもは私、大政家の本家の子どもも私です。父の持っていた株式は野木家の叔父に奪われましたけど、会社との繋がり全てを放棄するつもりはありません。大政は私の先祖が作った大切な会社なんです。経営する気はありませんけど、株式は今後私の子どもに譲りたいと思っています」

「旦那が欲しいと言ってもかい?」

「クリスはそんなこと言いません。言ったとしても止めるでしょうね」

「株式は持っていても経営には口を出さないと?」

「余程のことがない限り口を出す気はありません。大切な場所ではありますけど、大政はもう私の知っている会社じゃない。彼らも無能じゃないでしょうからいいように経営してくれるでしょ」

もちろん余程のことが起きたときは夫に協力してもらう。
叔父の代は何とかなるだろう。問題はその次だ。
キリギリスを後継者にするようであれば大政に未来はない。

「そっか。うん、ありがとう。わかった。あーちゃんはやっぱりあの大政本家の娘なんだな」

言葉に出さない部分の私の考えが中林さんに伝わったらしい。
中林さんはすっきりとした笑顔を見せ私の頭に手を伸ばそうとして直前で手を止めた。

「やべ、昔みたいに危うく頭ぽんとかするところだった。そんなことしたのがシュミット社長にバレたらとんでもない目に遭うとこだった」

危ない、危ないと言いながら明るく笑っている中林さんに私に対する悪意は感じられない。
昔のようにキリギリスの意地悪からそっと遠ざけてくれるお兄ちゃんの影を見たような気がする。

「あーちゃん、俺が聞きたかったのはこれだけ。出勤途中の忙しい時間に声掛けて悪かったね。夜の帰宅時間に声を掛けると何か悪いこと企んでいると思われると困るから朝にしたんだ。ホント、ごめんね」

「いいえ」
わたしはふるふると首を横に振った。

「でも、中林さんはこんなこと聞いてどうするつもりですか。今や何の力もない小娘に」

「ーーー内緒」

中林さんはにやりとしてから腕時計を私に見せた。

「お互い出勤時間が迫ってるな。でも、今度は本当にお仏壇に手を合わせに行きたいからまた連絡するね。シュミット社長と一緒に本家のお屋敷で会おう」

じゃあね、と中林さんは私を置いて足早に去って行った。



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