琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
「ねえ、伊勢さんってハウスオブダリアの仕事をしてたの?」

「そうです。前の会社の時ですけどね。当時、ハウスオブダリアってまだそこまで有名な会社じゃなかったんですよ。自慢じゃないですけど、僕のパッケージデザインの評判がよかったんです。SNSをきっかけにメディアに取り上げられてあの会社の知名度が上がり業績が伸びました。まあ元々いい仕事をする会社ではあったんで僕の作品は起爆剤みたいなものだったんですけど」

「あら、じゃあ伊勢さんは今のハウスオブダリアの陰の立役者というか功労者みたいな人じゃないの」

その人を前に逃げ出したように見えた長谷川社長の行動は謎だ。

相性でも悪かったのかしら。


「実はその話には裏がありまして。ーーー僕、その時に関わったハウスオブダリアの女性スタッフにしつこく誘われることになってしまって。結局いろいろあって僕があの会社の担当を外れることになりました。でも、僕が手を引いてから僕の商品デザインがSNSで評判になったんです。そこからハウスオブダリアは業績アップ。ーーーまあそんないきさつもあって長谷川社長は僕と顔を合わせるのが気まずいんでしょうね」

「え、著作権とかパッケージデザインの契約は?」

「トラブルとまではいきませんけど、お互いの会社の法務や弁護士が入ってまあ穏便にーーー」

弁護士が間に入っているのに穏便にっていうのも違和感ありまくりだけど。

「当事者は顔を合わさない方がいいということで僕は長谷川社長やあちらの人たちに会うことはなかったんです」

へえー。

「その後暫くしてから葵羽さんもご存知のように僕は前の会社を辞めて今の会社に入ったというわけです。こんなに働きやすい職場があると知っていたらもっと早くに転職すればよかった」

ははっと明るい笑顔を向けられて私は反応に困った。

伊勢さんが前の会社を辞めた直接の原因は女性上司のハラスメントだと聞いている。けれどこんな調子で他にもいろいろあったのかもしれない。

再就職で選んだうちの会社の職場環境が働きやすいと思ってくれているのならよかった。

でもうちの会社がいいと思うのなら、昨日の発言はよくなかったんじゃないだろうか。これでも私、社長の妻なので。


「ーーー先日はすみませんでした」

私が複雑な表情をしているのに気づいたらしい伊勢さんが声のトーンを落とした。

面談で失恋話をしたことなら気にしなくても大丈夫なのに。
きっと彼女に浮気されたショックや仕事が忙しかったことで伊勢さんのメンタルがちょっとおかしくなっていたんだろう。

「いろいろ時期尚早だったことは理解しています」

何の時期?

「葵羽さんと社長がどういう契約になっているのか知りもしないで」

は?

「待って、契約って何かしら」

「お二人って契約結婚ですよね」

「違う」

即座に否定すると「え?」と心底驚いたという表情をした伊勢さんにこっちもびっくりだ。

まさか伊勢さんからそう思われていたとは。

結婚を告げたときに叔父たちに偽装じゃないかって疑われたけれど、自分のところの社員には契約結婚だと思われていたとは。

やっぱり梅野さんの言うとおり放置されている妻に見えていたのだろうか。

「僕が葵羽さんを幸せにしますから社長と離婚しませんか?」

はあ?!


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