琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
「葵羽さんは後ろ盾が欲しくて社長と契約結婚したって聞いてます」

”聞いてます”???
聞いてますって誰から何を。

「ちょっと待って。誰がそんなことを」

「ええと、よく葵羽さんにつきまとってた葵羽さんの従兄弟さんです。何度か会社前で待ち伏せしてましたよね。滉輔さんに追い払われてましたけど」

それに該当するのはただ一人。
もちろん、キリギリス。
偽装の次は契約結婚ときたか。

でもまさか伊勢さんとキリギリスに接点があったとは知らなかった。

「先日会社の前で出会いましてそんな話を聞いたのですが」

おのれ、キリギリスっ。うちの社員に何言ってるんだ。

「伊勢さんは私と夫が契約結婚してると思っているんですか」

「違うんですか」

「違います。キリっ・・・あの男が伊勢さんになんて言ったのか知りませんけど、私たちが契約結婚だなんてあの男の嘘です。全くのでたらめです。第一夫には私と結婚して得られるメリットはありません。デメリットなら山ほどありますけどね」

私というお荷物を背負い込みあんな奴らと遠縁だと言われるデメリットがね。
クリスが既婚者の看板を得られるメリットに関しては教える必要がないから教えない。

ほぼ私に利がある結婚だけれど、契約を交わして結んだものじゃないし、他人から『契約』なんて単語で私たちの関係を語って欲しくない。

本当に忌々しい。

その調子であの男はあちこちで私たちが契約結婚だと言いふらしているんだろうか。
そのせいで長谷川社長や伊勢さんが暴走するのだとしたら大迷惑だ。

あれーーーーまさか、
先日クリスも私たちの不仲説が出ているからと過剰なほど反応して、ことさら仲がいい演出をしてきて今に至るけれど、それって。

もしかしてこのことをクリスも知っていたからこその方向転換だった?

背景にそういうことがあったからだと思えば最近のクリスの行動は納得出来る。

今頃になって同居しようと言ってきたのも、今まで放置だったのが一緒にいる時間を増やそうとしてきたのも。

不仲説払拭だけでなくキリギリスが広めた契約結婚説払拭のためだったのだとしたら。

・・・・・・そういうことだったのかと思うとがっかりだ。

なあーんだ。
本気で夫婦になってくれるのかと思ったのに。

クリスの口調が変わり、ちょっとだけスキンシップも濃厚になってーーーって期待しちゃった私が馬鹿なのか。

クリスははじめに言った通り私を守ろうとしてくれている。
そのための更なる対応だったのだとしたら、すっかりその気になっていた私ってかなり恥ずかしい。

そうだよね、愛が芽生えたとか言われたわけじゃないし。

嫌われていないし、可愛がってもらっている自覚はある。
でもクリスのそれは私の求めるような恋愛感情じゃなくて人間として好まれているとか保護者目線とかペットみたいなレベルだ。

男だからキスだって、ううん、それ以上だって嫌いじゃないならできるだろうし。


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