琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
うぅぅ。

勘違いして浮かれていた自分が恥ずかしい。

それもこれもあいつらのせい。

あの親子が諦めもせず私を取り込もうとして仕掛けてくるからこんなことになったんだと思うとお腹の底から怒りがこみ上げてくる。

私からいろいろ奪っておいてまだ満足しないとはなんて強欲で恥知らずな人たちだろう。

野木の親子は難癖をつけては私たちを離婚させようとしている。

叔父は隆一と私を結婚させるのが一番の狙いだけど、それができなくても地位も権力もあって頭がいいクリスを私の側から排除できればいいと思っていそう。
クリスさえいなければ私ひとりなどどうにでもなると。

ちっ。

思わず出てしまった舌打ちに「葵羽さん?!」と伊勢さんが驚いている。

正直、目の前の伊勢さんの気持ちとか今はどうでもいいという気分になっている。

「ーーーねえ、伊勢さん。私ね、夫のことが好きで好きで仕方がないの。なのに結婚から2年半以上経ってもまだ自称叔父とか従兄弟が私の財産だけじゃなく恋の邪魔もしてくるの。あいつらどうやって退治したらいいと思う?こうなったら直接殴り込み?それとも闇討ち?でもなるべく夫に迷惑がかからないようにしたいのよね。バレずに抹殺する方法とか知らない?」

「え」
伊勢さんが口を開けたまま固まっているがそんなことかまいはしない。

「いい加減我慢の限界なの。伊勢さんも二度と私にクリスと離婚とか口にしないでね。じゃないと闇討ちの相手間違えちゃうかもしれない」

怒りにまかせてそんなことを口走っていた。

「葵羽さん・・・・・・」

「ああ、もう何にも言わないで。自分勝手だとは思ってるけど、これ以上何か言われたら私あなたに八つ当たりをしてしまいそう。ただでさえ今朝おはようの電話をくれた以来クリスからメールも電話もなくて気持ちが荒んでいるの」

考えれば考えるほどイライラとしてくる。

キリギリスに対してだけでなく、このところずいぶんと思わせぶりな態度をとって私を勘違いさせたクリスにも。

私だけひとり恋愛脳で浮かれてたって恥ずかしすぎるーーーーー!

伊勢さんに恨みはないけど、これ以上話をややこしくしないで欲しい。

彼女が浮気したこと、
私に好意を持っていること。

それって全部伊勢さんの問題であって私の問題じゃない。

伊勢さんが私のことを好きになってくれたことは女性としての魅力を認めてもらったという意味で嬉しいけれど、それ以外は何も感じないし、それによって離婚を迫られているのだから迷惑でしかない。

本気で私のことを思ってくれるのなら、まず彼女ときちんと別れて身ぎれいにしてから告白するべきじゃない?
それを中途半端にずるずる付き合い続け断ち切ることもせず挙げ句に何も関係のない私に離婚して欲しいとか。

あり得ない。
私がキリギリスと結婚するレベルであり得ない。


「葵羽さんって本当に社長のことが好きなんですか」

まさかとでも言いたげな伊勢さんの口調に余計に腹が立つ。

「だからさっきからそう言ってるでしょ。好きなの、大好き。だから絶対に離婚なんてしないし」

「僕はお二人が何らかの契約に縛られた婚姻をしているのだとばかり・・・・・・。葵羽さんの従兄弟という男性は『従姉妹が金のために見せかけだけの愛のない結婚生活をしているのが不憫だ』と言ってましたし・・・・・・」

信じられない内容に「はあ?」とドスのきいた声が出てしまう。
それを聞いたせいか伊勢さんの顔色が悪くなった。

あのキリギリス野郎、何を伊勢さんに吹き込んでくれているんだ。
切り刻んでやろうか。

「すみません、伊勢さんをうちの親族トラブルに巻きこんでしまったようです。本当に申し訳ありません」

相続で揉めていて私とクリスを引き離したい親族がいると言うと伊勢さんは眉を下げた。

「じゃあ葵羽さんは本当に?」

「ええ。夫が私の全てなの」

滉輔さんにクリスを紹介してもらってから私の中で男性という生き物はクリスチアーノ・シュミットただ一人。

「僕が社長に代わってあなたを守ります」

「申し訳ないが、それはお断りだ」

聞き覚えのある低音ボイスがして背後から身体を包まれる。
爽やかな香水の香りに混じって汗のにおいがするのは急いでここにきてくれた証拠なのだとしたらとても嬉しいのだけれど。

「葵羽、愛の告白は同僚にじゃなく本人にして欲しいんだが」

「まさか聞いてた?どこからーーー?」

バックハグされたまま恐る恐る顔を見上げると、琥珀色をした瞳をちょっと細めて微笑んでいるクリスと目が合った。



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