琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
「俺も葵羽が大好きだし、離婚なんて考えたこともないよ。葵羽は俺の全て」

私が言ったことはまるっと聞かれていた。
気恥ずかしくて視線を下げようとしたら反対に顎を持たれて強制的に上を向かされる。

えっと思ったときにはキスをされていた。

唇と唇が軽く重なり離れていったと思ったら、もう一度唇が重なって軽く舌が入ってくる。
ほんの数秒のことだったけど、人前なのに湿った音がして目眩がするほど恥ずかしい・・・・・・。

「だからね、伊勢くん。こちらの事情に巻き込んでしまって申し訳ないけど、葵羽のことは諦めてもらっていいかな」

恥ずかしさで顔を上げられない私の身体を後ろからしっかりと両手で抱きしめたクリスの声が頭の上でする。

「社長は本当に葵羽さんのことを愛しているんですか」

「当たり前だろ。一目惚れしてまだ学生だった葵羽を口説き落として結婚したんだ。愛してないはずがない」

「でも、他の女性との噂もあったし、葵羽さんのことも大事にしてるようには見えませんでしたし」

「部外者から見たらそう見えたのかもしれないけれど、全て仕事だ。俺は葵羽一筋だし浮気はしていない。まあ今後はそんな噂もなくなるはずだけど」

「僕も葵羽さんを守れます。他の女性の影があるあなたでなくてもいいはずです」

「いや、葵羽は簡単に守らせてくれるような単純な女じゃないよ。それに守られて満足するような女でもない。俺も葵羽に守られているんだ。深いところで俺たち夫婦は繋がってる。伊勢君にはわからないと思うけど」

クリスの自信満々な言い方に伊勢さんは黙ってしまった。

「葵羽は渡さないよ。伊勢君はお互いだけを必要としている別の女性を探すべきだ」

「でもーーー」
と更に何か言おうとした伊勢さんを
「もうやめとけ」と止めたのは滉輔さんだった。

「クリス、社長ともあろう者が会社の近くで濃厚なキスをするのはやめてくれよ」

私たちに向ける滉輔さんの呆れたような視線がかなり痛い。

会社から目と鼻の先の場所でなんてことをしてしまったんだろうか。

「暫く会えなかったんだから仕方ないだろ。おまけに妻が俺への愛を語ってたんだ。夫としては受け止めるべきだろう」

「それにしたってだな-よそでやれ」

私たちに向かって手で追い払うような仕草をした後、伊勢さんに社内に戻るように目線を動かした。
それでも動かない伊勢さんに滉輔さんは顔を顰める。
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