琥珀色の溺愛 ーー社長本気ですか?
エレベーターに乗り込むと二人だけの空間になり、クリスは私を今度は正面からハグしてくれて私の身体にぬくもりが戻ってきた。

「葵羽、大丈夫?」

「うん。クリス、お帰りなさい」

背中に回されたクリスの腕に力がこもる。
私もぎゅっと掴むとまたクリスも私を抱きしめ返してくれる。

「ただいま、マイハニー。遅くなってごめんね」

こめかみにキスが落ちてきていつもの流れだなぁと思う。
嬉しいけれど、私が本当に欲しいものに気がついてしまった今はちょっと虚しい。

「今朝のメールの返信もしていなくてごめん。急いで帰国するために死に物狂いで働いていてメールをもらったときは帰りの機内でさ、熟睡してたから気がつかなかったんだ」

「帰国?今まで海外にいたの?」

「そう。グアムとシンガポールそれとニューヨーク」

それは誰にも聞いてない。まさか海外にいただなんて。

私が鈍いだけかもしれないけれど、普通に朝や夜に電話があったしメールもあったから違和感を感じていなかった。
時差とか考えたらクリスは大変だったかもしれない。

「ーーー知らなかった。大変だったのね。都内にいないとは聞いてたけどまさか国内にもいなかったとは」

「葵羽が不安になったり心配すると思って黙ってたんだ、ごめん。でももうこれからは居場所を隠さないから安心していいよ」

そうなの?と首を傾げると、エレベーターが振動して目的階に到着するところだった。

「葵羽はお昼ご飯まだなんだろ。それ持って応接室に行こう。メールに書かれてた大政の話もしたいし」

クリスは先に向かい、私はお茶を淹れて追いかけることにした。



お茶を蒸らしながら大きく息を吐く。

クリスが帰ってきてくれたことで如何に自分の肩に力が入っていたのかを自覚したのだ。
やっぱり安心するなあ。

神さま、仏さま、本当にありがとうございます。

何があっても大丈夫だと絶対の安心感をくれる夫に出会えたことに何度目かの感謝をする。

本当に彼と出会えていなかったら今ごろ私はどうしていただろう。

キリギリスの嫁ーーーー何があっても嫌だけど、毎日迫られて追われてメンタルがやられサインしてしまうなんて可能性があったかもしれない。

野木葵羽・・・・・・ぞっとする。
本当に葵羽・シュミットでよかった。

肉体関係はないけど私はクリスチアーノの公的機関に認められている配偶者だ。

嫌われてない、可愛がってもらっている。

深いキスもイヤがらずにしてくれる。


ああーーーーそっか。

クリスがわたしとの深いキスが嫌じゃないのなら、きっとその先のことだって、もしかしたら嫌がられないかも。

じゃあ、いっそのこと私が襲ってしまえばいいんじゃない????



そうしたら私におちてくれて私はクリスの本当の妻になれるかもーーーー?



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